地方でもシェアサイクルは定着するか

実際に試して便利なことはわかったが、この取り組み、果たして事業として利益はあるのだろうか。そんな疑問を、プロジェクトの事務局となっている上田市の都市計画課・東城雄飛さんに聞いてみることにした。

スマホがそのままキーになる! 車社会の地方都市で広がる「シェアサイクル」の波_7
上田市都市建設部・都市計画課の東城雄飛さん

「そもそもレンタサイクルの取り組み自体は、実は10年ほど前から行っていました。駅前の放置自転車対策の側面が強かったと思います。しかし、それは受付で鍵を渡すような有人対応のサービスで、それ故に新型コロナウイルスの影響を受けて休止してしまったのです。とはいえ、レンタサイクルのニーズはあるのでどう応えていくべきか…と考えていたところ、ちょうどしなの鉄道沿線の千曲市がシェアサイクルの導入を検討しているという話を聞き、県(UDC信州)の支援を受けながら上田市も一緒に連携して広域シェアサイクル社会実験という形で取り組むことになりました」(東城さん)

運営には課題も多いのではないだろうか。

「車両の再配置やメンテナンスという課題はあります。どのサイクルポートに返却してもいい仕組みなので、定期的に車両を移動させて数を調整する必要が出てくるのです。GPSで置いてある場所が把握できるのですが、土日など利用が多い日の前日は特に注意しています。パンクやバッテリー状況も、再配置の時に確認しています」(東城さん)

なるほど。運営には車両の維持費など以外にも、それなりの人件費がかかってくるようだ。そうなると、運営コストと収益とのバランスが釣り合わなくなるのではないだろうか。

「シェアサイクル単体で利益を挙げていくのは、大都市でないと成り立たないのではないでしょうか。地方都市はやはり、行政の財政負担もある程度は必要だと思います。そうした中でこの取り組みを持続させていくには、事業を行う意義や目的を示すことが大事だと考えています」(東城さん)

実証実験は今年で2年目。最初は観光利用が目立っていたが、今では市民利用が中心になってきたという。認知が広がれば、市民の利用ニーズは確実に存在するということだ。市の魅力創出につながる取り組みだと思うので、ぜひ根付いていってほしいところだ。

季節はまもなく秋。上田市は実に過ごしやすい季節を迎える。色づく山々を眺めながらサイクリングを楽しみ、「信州最古の湯」とも言われる別所温泉で汗を流す。松茸を使った季節料理に舌鼓を打つのもまた一興だ(上田市は国内有数の松茸の産地として知られている)。興味のある方は、ぜひ上田市を訪れ、自転車で散策してみてはいかがだろうか。

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下之郷駅の付近にある大鳥居。夏は青々とした田園風景の中に朱の色が映える。山々が色づく秋の景色も美しい

文・写真/小平淳一