アイスダンス転向での“超進化”

そして髙橋はさらに大胆な道を進む。2019年、二度目のシングル引退と同時に、村元哉中(むらもと・かな)と組んでシングルからアイスダンスへ転向。同じフィギュアでも異なる競技だけに、世間を驚かせた。表現力の高さで世界を魅了した髙橋であっても、苦労するのは目に見えていたからだ。

しかし髙橋の少年のようなスケートへの好奇心は、ジャンルを超越していた。

「できるだけ長くスケートで表現がしたい、と自分は思っています。舞台(公演)もやらせてもらって、まだまだスケートの可能性があると感じました。アイスダンスにはスケートの広がりを感じて」

純粋なスケートへの想いこそ、髙橋の最大の異能だ。

多くの人は幼いころに夢中になったものに対しも、どこかで擦れていく。ずっと好きだと言いつつ、妥協する。あるいは踏ん張っていても、ここまででいいか、と折り合いをつける。

だが、髙橋はスケートへの愛を摩耗させることなく持ち続けている。それを象徴していたのが、2018年に現役復帰したシーズン、世界選手権辞退を伝える会見での一言だ。

「今ならフィギュアスケートを好きって言えます」

幼いころから一筋で打ち込んできたスケートに対し、彼はそう打ち明けた。20年も打ち込んできて、ようやく好きと言える資格を得たというのだ。

「それまでは(フィギュアスケートとは?って)聞かれると、まあ、『必要なものかな』って答えていたんです。でも、『好き』とは断言できなかった。言えるようになったのは、現役復帰してからです。好きだったんだろうけど、人前では口にできなくて。素直に、『好きです』と言えなかったです。『嫌いじゃないけど』、みたいな(笑)」