高齢期に住宅ローンの支払いは少ない
住宅ローンの平均返済金額は、30代後半から40代前半の5万円程度をピークに下がっていく。住宅ローンの支払金額は定年後の減少が著しく、60代前半は月1.6万円、60代後半が同1.1万円、70代以降は住宅ローンを返済している人はほとんどいない。現在のシニア世代は住宅バブルの真っ只中に住宅を購入した人も多く含まれる。それでもなんとか住宅ローンは払い終えている人がほとんどなのである。なお、この数値は住宅ローンがある人もない人も含めた平均金額である。また、住宅に関係する費用は住んでいる地域の特性に大きく左右されるが、当然、数値には都市に住む人も地方に住む人も含まれている。
高齢期に住宅ローンの支払いが少ない理由は、多くの人は住宅ローンの早期返済を行っており、現役時代に債務を返し終わるからである。住宅金融支援機構「住宅ローン貸出動向調査」によれば、2019年度の住宅ローンの約定貸出期間は27.0年であるのに対し、完済債権の貸出後経過期間は16.0年であった。近年は資産価格の高騰や金利の低下による影響などから、住宅ローンの返済期間は長くなる傾向にあるが、現状では多くの人が20年以内には借入金を返し終えていることがわかる。
高齢期に資産性のある住宅を所有しておくことは、自宅を担保に老後にかかる資金の借り入れを行う「リバースモーゲージ」による住宅資産の活用など、いざ高齢期に資金が足りなくなってしまった場合の保険にもなる。稼得収入があるうちに自身の経済状況と相談しながら、住居保有の是非を適切に判断することが必要だろう。
これは気づかれにくいことであるが、実は定年後の家計支出の最も大きな変化は「非消費支出」に表れる。非消費支出とは税金や社会保険料など家計の自由にならない消費のことである。50代後半で月14.2万円の額が必要となるが、60代前半で8.8万円、60代後半で3.7万円まで急激に下がる。
もちろんこれは定年後に非就業になる世帯という前提があるからでもあるが、そもそも定年後の労働収入はほとんどの家計でそう大きくないため、就業世帯であっても非消費支出が大きく減るという事実は変わらない。逆に言えば、現役時代にはそれだけ大きな税・社会保障負担を強いられているともいえるのだが、高齢になれば収入が減ることで所得税や 住民税が大幅に減額になり、年金保険についてはそもそも保険料を支払う側から年金給付を受け取る側になる。