映画界の未来をも変え始めたミニシアター

目や耳が不自由な方も赤ちゃん連れもウェルカム!日本で一番優しい映画館「シネマ・チュプキ・タバタ」_1

目が見えない人、耳が聴こえない人、全ての人に映画の感動を届けたい。そんな思いで誕生した日本初のユニバーサルシアター「CINEMA Chupki TABATA(シネマ・チュプキ・タバタ)」(東京・北区)が、9月1日で開館6周年を迎える。「自然の光」を意味するアイヌ語を館名にした下町のミニシアターは、その言葉の通り街を優しく照らし、人々の心や映画界の未来をも変え始めている。

シネマ・チュプキ・タバタ(以下、チュプキ)はJR山手線・田端駅から徒歩約7分の田端駅下仲通り商店街にある、座席数最大25席のミニシアターだ。上映作品はイヤホン音声ガイドと日本語字幕つき。車椅子のまま鑑賞できるスペースもあれば、赤ちゃん連れの方も心置きなく映画を楽しめる完全防音の「親子鑑賞室」も完備。

ここは大きな音が苦手という方や、周囲を気にすることなくメモを取りながら鑑賞したい!などといった一般の方の利用も可。つまり、どんな方でもウェルカムな映画館なのだ。

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親子鑑賞室
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代表の平塚千穂子さん

2016年にチュプキを設立し、運営を行うNPO法人バリアフリー映画鑑賞推進団体City Ligts代表の平塚千穂子さんが語る。

「最初は障がい者専用映画館だと思われていたようです。座席数が少ないから一般の人は行ってはいけないのではないか?と敬遠する方もいました。でも、当事者たちだって専用の映画館に行きたいんじゃなくて、皆が楽しんでいるところで一緒に楽しみたいんです。隔離したら意味がない。だからこそのユニバーサルシアターなのです。実際、障がいを持った方の利用は全体の2割程です」

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映画館を訪れた監督や出演者のサインがびっしり。8月31日まで、新しい映写設備(DCP)導入のためのクラウドファンディングに挑戦中

チュプキはその特性ゆえに支持されてきたワケではない。毎月テーマに則って編成されるこだわりのプログラムや、劇場の音響設計をアニメ『ガールズ&パンツァー』シリーズで知られる音響監督・岩浪美和氏が手がけた良質な上映環境にある。

平塚さん自身、名画座の名門・早稲田松竹でアルバイト経験アリの根っからの映画好き。現在の活動の原点となったのも名作がきっかけだ。
 
20数年前、浮浪者が盲目の花売り娘の目を治すために奮闘するC・チャップリンの名作『街の灯』(1931)を、目の見えない人たちと一緒に鑑賞する上映会の企画に参加した。チャップリンは「言語や国境を超えて、世界中の人が楽しめる」とサイレントにこだわった。しかし音で情報を得る彼らにとって、サイレントは“世界中の人”の外側に置かれていた。さらに、映画好きの中途失明者と出会い、彼らの「映画鑑賞を諦めたくない」という思いを知ったという。

「ならば自分が届けよう」と平塚さんは2001年にCity Lights(『街の灯』の原題に由来)を設立。音声ガイド研究会を発足して当事者たちの意見を取り入れながら、最良の音声ガイド制作を自費で行いつつ、シアター同行鑑賞会や映画祭を実施している。

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座席には音声ガイド調節機が
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映画の音を振動で感じられる「抱っこスピーカー」の貸し出しも
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盲導犬も一緒に鑑賞することが可能

拠点にした上映スペース「Art Space Chupki」(東京・上中里)での活動を経て、念願の常設館・チュプキをオープンさせた。その資金をクラウドファンディングで募ったところ、約1880万円が集まった。

「“奉仕活動をやっています。でも映画は知りません”という人に(映画鑑賞を)誘導されても、きっとつまらないですよね。私たちは“映画の良さを伝えたい”という仲間が集まって活動し、当事者の人たちと一緒に築き上げてきたという思いがあります」(平塚さん)