第1号の検体は松島幸太朗
――それで起業にいたったわけですね。
はい。スポーツによってアスリートに求められる資質やスキルは異なりますが、共通して求められるのは、疲労を効果的に回復させて、いいコンディションのなかでトレーニングを続け、スキルや能力を積み上げていくこと。
だとしたら、優れた成績を残したトップアスリートの腸内環境を調べれば、スポーツに限らず、広く社会や健康に貢献できる事業が行えるのではないかと考えました。こうして2016年の引退に合わせてアスリートの腸内細菌を研究するスタートアップ「AuB」を立ち上げたのです。
――腸の環境の可視化とは具体的にどんなことをするのでしょうか。
一言で言えば、トップアスリートからウンチをもらって、どんな腸内細菌がいるか調べるんです。きっと一般の人たちとは異なるアスリート菌と呼べる腸内細菌が存在するだろうという仮説がありました。
第1号の検体は、ラグビー日本代表の松島幸太朗選手。食事中に「うんこ、持ってきてよ」とお願いしたら「ケイタさん、なに言っているんですか」と驚いていました。
――松島さんの気持ちは分かります(苦笑)。
それでもぼくらの事業の意図を説明したら、快く提供してくれました。いまは野球、サッカー、陸上、ラグビー、新体操……40競技、950人以上のアスリートから便のサンプルをいただきました。
それでこの7年間、研究を続けてきて、人の腸内の健康度合いは「酪酸菌」の多さと腸内細菌の多様性に左右されると分かったのです。
アスリートの便は、一般の人に比べて腸内細菌に多様性があるんです。ある研究によると、酪酸菌は持久力に関係する短鎖脂肪酸を作るという結果が出ていますが、アスリートはこの酪酸菌を持っている人が多い。こうしたものを、ヘルスケアの領域でも貢献できるようにしていきたいと思ってます。
――腸内細菌のエサとなる栄養補助食品や「酪酸菌」など、人に有用な菌を配合したサプリメントなども開発したそうですね。
ようやく開発にこぎつけたところです。僕はサッカー選手としては走れる方だったと思いますが、だからこそ人間の身体には限界があると実感できました。
限界まで身体能力やスキルを高めたら、あとはいかにコンディションを整えるかがパフォーマンスを高める鍵になる。それはアスリートも一般の人も変わりません。そのためにも、腸内細菌、腸内環境の重要性に注目してほしいのです。
取材・文/山川徹 撮影/村上庄吾
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