むつ市で3年ぶりに開催された大きな夏祭りを見物することに

その日の僕は、午前中に三内丸山遺跡を見学して、はるか昔の縄文人の暮らしに想いを馳せたあと、本州最北端の“市”であるむつ市に移動した。
東京を出発してから4日目。
ここまでは寝るときと食事、観光地などへの立ち寄り以外はずっと走りっぱなしだった。
だからこの街では、車のオイル交換やホームセンターで不足品の買い出し、それと溜まりはじめた洗濯物をコインランドリーで洗ったりしようと考えていた。

それらの用事を済ませたのち、市のはずれである海の近くの温泉に入っていたら、地元の漁師らしきおじいさんに話しかけられ、湯につかりながら世間話をした。
おじいさんは、「ああそう、わざわざ東京から。ご苦労さんだね。まつり、見にきたのでなく?」と尋ねてきた。

車中泊旅の途中、本州最果ての国道でクマに遭遇した夜_2
祭りの情報をゲットした現場、「プレジャーランド石神温泉」。ど演歌がBGMで流れる昭和レトロな温泉

何も知らなかった僕が「まつりって?」と聞くと、今日を中日(なかび)として三日間、田名部神社の例大祭が開かれるのだという。
へえ、と思った僕は温泉から出たあと車内で検索してみた。
田名部神社というのは、むつ市の中心部にある下北半島の総鎮守。そして田名部まつりとは、5台の山車が出る下北半島最大の夏祭りであること、コロナの影響で今年、3年ぶりに開催されることなどがわかった。

これは面白そうだ。ぜひ見よう。
本当は温泉から上がったら、半島東南の海岸線を走り、本州最北端の大間崎まで行くつもりだったのだが、僕は田名部まつりを見学するため、夜までむつ市内で過ごすことにした。

市内の中心部に引き返して駐車場に車を停め、犬を連れてまつりのエリアに行くと、大勢の人たちが繰り出し、大いに盛り上がっていた。
豪華絢爛な山車が通りを引き回され、角を曲がるときは男衆が力を合わせて回転させる。そのたびに見物客からは大きな拍手と歓声が送られていた。
山車の巡行のあとにはじまった、女衆を中心とする「おしまこ流し踊り」も素晴らしく、ずっと見ていても飽きなかった。
やっぱり地方都市の祭りはいいものだ。
地元の人たちは、3年ぶりに祭りができる喜びを噛みしめているのだろう。
通りすがりのよそ者である僕にも、街全体を覆う高揚感が伝わってきた。

車中泊旅の途中、本州最果ての国道でクマに遭遇した夜_3
田名部まつりは素晴らしかった

祭りのメインイベントの見物を終えた僕は、今日のねぐら探しをはじめた。
ところが、スマホで調べてみたところ、むつ市中心部には車中泊できる道の駅がないということがわかる。
一番近い道の駅は、恐山の西に位置する、かわうち湖というところ。
Googleマップによると、現在地から44km、約48分で着くようだ。

次の本当の目的地である大間崎までは48km58分。
かわうち湖を経由すると、大間崎まではかなり遠回りになってしまう。
だが僕はかわうち湖を目指すことにした。
急ぐ旅ではないので遠回りも悪くないだろうと思ったのと、道の駅かわうち湖は標高の高いところにあるので、涼しくて寝やすいのではないかと考えたからだ。