椅子だけでなく家具全般を生産

椅子に関するキャッチーな話題が多いマルニ木工だが、同社は決して椅子だけを作ってきた企業というわけではない。1928年に創業したのち、洋家具の知識を学びながら、広く木工家具を作り続けてきた老舗だ。山中社長は、同社の成り立ちについて、次のように話す。

「広島は土地柄として、厳島神社のように有名な木造建築も多く、宮島木工細工のような木彫りの名産もあります。創業者も、やはり幼少期に木に触れる機会が多く、自然と木工に興味を持ち、弊社の前身である『昭和曲木工場』創業に至ったと聞いています。

創業当時は、第二次世界大戦前のまだ洋家具が普及していないような時代でしたが、創業者はその頃から『日本の住宅文化を高めたい』『座る人が美しく見える椅子を作りたい』といった思いを抱いていました。

その後、戦後の高度経済成長期に入り、日本の住宅文化が洋風化していくなかで、彫刻をあしらったような富裕層向けのヨーロッパ調クラシック家具を中心に製作するメーカーになりました」

木目の見え方にまで想いを込めて… Appleが認めた名作チェア「HIROSHIMA」が生まれるまで_3
株式会社マルニ木工の代表取締役社長・山中洋氏。1994年明治大学商学部を卒業後に渡米。1998年米国オールドドミニオン大学経営大学院を卒業後に帰国し、1999年株式会社マルニ(現 株式会社マルニ木工)に入社。入社後まもなく英国の提携工場にて家具製造の基礎を学ぶ。帰国後は営業職を経て社内の様々な機能改革に従事し、「MARUNI COLLECTION」、「MARUNI60」等、外部デザイナーとの企画を積極的に推進。ブランド戦略や商品企画、セールスプロモーションの構築に携わり現在に至る。2021年株式会社マルニ木工代表取締役社長に就任

今回取材に伺ったのは、東京都中央区の東日本橋にあるマルニ木工の直営店「maruni tokyo」。同店の1階はHIROSHIMAアームチェアをはじめとするマルニコレクションが並んだ美術館のようなミニマルな空間になっている。一方、同店の3階には、歴史の積み重ねを感じさせるクラシカルな洋家具が数多く展示されている。

「当時の百貨店では家具売り場が全盛期を迎えていました。伊勢丹や、三越、高島屋、西武などで、ワンフロア全部が家具という時代があったんです。家具メーカーは、家の中を同じテイストの家具で、周辺インテリアを含めてトータルコーディネートできますよ、という売り方をしていて。こうした家具を揃えられることが成功の象徴でもあったわけです。マルニもこうした戦略で大成功を収めていました」

その頃、マルニ木工は「マルニ」と名前を変え、メーカーでありながらラグや照明も販売する家具・インテリアの総合商社のような側面を強めていた。しかし、バブル崩壊を経て、日本経済が下火になっていき、売上ダウンが続くなか、その方針も転換せざるを得なくなっていく。社名も「マルニ木工」に戻し、再びメーカーとしての姿に戻っていった。

「世代によってマルニ木工に抱かれるイメージは異なるようですね。ご年配の方にとっては、クラシックな洋家具メーカーというイメージがある一方で、若い方にはシンプルなデザインの家具が好まれています。それぞれ商品のテイストは全然違うのですが、世代を超えてご愛用いただけているケースが多く、嬉しい限りです。今でもマルニ木工は、木製家具と言われるものならば、基本的に何でも手がけています」

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東京・日本橋にある直営店「maruni tokyo」の1階
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「maruni tokyo」の3階にはクラシック家具も展示されている。こちらもマルニ木工を代表する商品だ