高校野球ながらも「勝って当たり前」のプレッシャーを跳ね除ける大阪桐蔭の凄さ

これまで見てきたように、高校生でありながらどの世代も「勝者のメンタリティ」を兼ね備えているのが大阪桐蔭だ。どの世代も「勝って当たり前」と見られるなかで、結果を出せるチームを作り上げる西谷氏の手腕も光る。

西谷氏の凄さの一つは、選手のモチベーション管理を含めたマネジメント能力だ。戦力的に充実している年が多いため、「優勝して当たり前」と見られがちだが、多くの世代の野球ファンなら誰もが知るタレント軍団をまとめた上で、優勝に導くために個々の能力を活かし切れている。

また、派手さがある年とない年があるなかでの、監督やチームとしての「勝ちパターン」も豊富だ。さまざまなチームカラーで優勝しているからこそ、複数回の優勝を達成できている。色々な勝ち方ができる要因は、確立された戦略や運用力だ。

優勝した年には高確率で「掘り出し物」の選手や「ラッキーボーイ」的な存在がいる。チーム内で比較的目立つ主役と脇役のバランス感覚が絶妙で、他の監督には行き届かない領域に達している。さらに、「大阪桐蔭」といったネームバリュー、ブランド力もあると、初戦の序盤であったり、試合終盤に相手にプレッシャーがかかり、萎縮するなどでミスを誘えることもある。

さらに、試合運びのうまさも西谷監督の強みのひとつ。これは、2014年のチームが象徴的だ。この年の大阪桐蔭は、これまで優勝した年とは違い「圧倒的な強さ」はなく、新チーム発足直後の大阪秋季大会ではライバルの履正社を相手に13対1のコールド負けの屈辱を喫している。

ただ、秋季大会終了後の成長度合いはもの凄かった。そして、勝ち方や逆転の仕方にもバリエーションがあり、「試合巧者」として勝ち進むにつれて再現性を高めた結果が、夏の甲子園の準々決勝、準決勝、決勝の試合運びに表れた。

準々決勝では「機動破壊」でお馴染みの健大高崎相手に、相手の機動力を徹底的に無視した。この試合で4盗塁を許す代わりに、投手は打者との対戦に集中したのである。

完投した福島孝輔は、「足は無視。アウトを取ることに専念した。」とコメント(「週刊ベースボール 第96回全国高校野球選手権大会総決算号」ベースボールマガジン社)。それによって、無駄なクイックが減り、球威や球速が下がることなく、健大高崎を2点に抑えた。

準決勝は、敦賀気比と壮絶な打ち合いになった。先発の福島は1回表に5点を失ったが、その裏、打撃陣が敦賀気比の2年生エース平沼翔太(現・北海道日本ハムファイターズ)から得点を積み重ねて2回に追いつく。その後、3回表には突き放されるも、4回裏には逆転に成功。結果的に15-9で大阪桐蔭は勝利した。5戦で合計77安打を記録していた敦賀気比に対して、打撃戦で挑み決勝に進んだ。

決勝の三重との試合は、全体を通して三重のペースで進んでいた。3回に2点を先制された大阪桐蔭は、4回に追いつくが、5回に勝ち越される。ターニングポイントは7回だ。三重は一死三塁のチャンスで、スクイズ失敗に終わり、追加点が取れずに終わる。

その裏の大阪桐蔭は、二つの四死球とヒットで一死満塁のチャンスをつくり、キャプテンの中村誠がしぶとくセンター前に勝ち越しタイムリーを放った。9回表も福島が一死一、二塁のピンチを背負ったが、抑えて夏制覇を果たした。

「今年は圧倒する力はないですけれど、子どもたちは夏に日本一になるためにどこの学校よりも練習してきたつもり」(同前)と西谷氏がコメントしたように、「粘りに粘る野球」が、最高の形で完結した。この年の夏の戦い方は、選手の成長はもちろん、西谷監督のマネジメント力、育成力の集大成だったとも言える。

夏の大阪府大会をみていくと、2010年代の10年間のうち8年は大阪府の公式戦(夏大会)で準々決勝より上に勝ち上がっている。2020年代も22年まで全て準々決勝より上にまで勝ち上がっている(2020年準決勝・2021、2022年優勝)。とくに、2015年以降は、履正社というライバルが存在しながらも5年間で春夏合わせて甲子園に出られなかった年は2019年のみである(この年の夏の甲子園優勝校は履正社)。

大阪桐蔭に対しても、高校野球ファンはもちろんのこと、実際にプレーをしている高校球児や指導者からも、夏の大会には合わせてくるだろうという期待感はあるのではないだろうか。球場の雰囲気など含めて、選手たちは大きなプレッシャーの中で、プレーをしているに違いない。

今大会は、準々決勝で下関国際に5対4で敗れ、3度目の春夏連覇を逃した。敗因は、バントミスや王者らしからぬ焦りが出たことだ。それが見えたのが、7回裏のノーアウト1、2塁の場面で7番打者の大前圭右にバントエンドランをさせた場面だ。このプレーは大前がピッチャーフライを上げてしまい、飛び出してきた2塁ランナーと1塁ランナーもアウトになり、トリプルプレーになった。

この場面では、采配面でも焦りが見え、その焦りが選手にもプレッシャーとして圧し掛かってしまい、トリプルプレーという結果になったように見えた。一方、下関国際は最終回に難なくバントを成功させて、逆転劇を生んだ。

高校野球の世界において大阪桐蔭は、「常勝チーム」であるがゆえに相手チームが押せ押せのムードになれば「あの大阪桐蔭に勝てるチームが現れるかもしれない」という期待感から、球場全体が大阪桐蔭にとってアウェイになる。

次の世代の大阪桐蔭は、ビハインドのときにアウェイな雰囲気を押し切る強者の野球を展開できるかがカギになるだろう。

取材・文/ゴジキ  写真/shutterstock

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