子どもたちの要望からできた、ゴロゴロしていても怒られない場所
──私が映画を見て、ああ、なるほどなあと感じたのが、子どもがごろごろしていても怒られない場所「ごろり」。今の子どもって、お稽古事や塾やスポーツの試合や練習などでめちゃくちゃ忙しいんで、ああいう場は近くにあったらいいなあと。
「ゆめパを作る会議をしているときに、子どもたちも計画に参画したんですけど、そのとき、子どもたちから出たのが『家でゴロゴロしていたら怒られるから、ゴロゴロできる部屋を作ってくれ』っていう。すごい切実なんですよね。で、それをまた、作るっていう姿勢が僕はすごく好きですね」
──重江監督が通っている中、やっぱりあそこは、子どもはゴロゴロしていますか?
「本当にゴロゴロしています。ゴロゴロできるし、本当に隙間の空間なんですよね。大人たちの目があんまり入らない場所だから、そこは無になれる空間みたいです」
規模は小さくてもいい、上下関係なく楽しく過ごせる居場所が増えれば、子どもはもっと楽になる
──ああいう場所って、結局、親が電車や車で連れて行くような距離では定期的に通うことが続かない。やっぱり、自分の足や、自転車で行ける範囲内にあることが重要ですよね。
「基本的に川崎市内の子どもたちが通っているんだけど、中には東京や横浜から来ている子もいるとは言ってましたね。僕が考えるには、ゆめパほどの規模じゃなくても、あの場が持つエッセンスを持っていれば、小さな場所でもいいと思うんです。ゆめパと同じく、子どもを中心にして、常に子どもの最善の利益を考える場所。それが色んなところにあればなおいい。僕が映画を作った理由もそこにあるんですね。ゆめパみたいに、小さな子どもから大きな子どもたちまで、上下関係なく、楽しく過ごせる居場所が増えていけば、子どもたちももっと楽になれるんかなあと思いますね。
それこそ、ゆめパには一年の半分近く、日本中の自治体から視察が来るそうなんですよ。でも、プレーパークだけじゃなく、不登校の子どもが通うフリースペースを擁するゆめパみたいな施設が全国に出来ているかと言うと、まだひとつもできていない。川崎市が『川崎市子どもの権利に関する条例』を掲げ、土地だけで100億円をもする場所にこういう居場所を作ったことが大きいんですけど、でも、大事なのは規模じゃなくて、中身ですよね。箱だけ立派なものを作っても、全然子どものことを理解してない大人が『きみたちの居場所を作りました!』と言っても、子どもにとってそこは地獄でしかない。
僕は箱の大きさは別になんでもいいと思っていて、そこに集う大人たちの持つ子ども観が重要だと思っています。ゆめパの理念みたいなものをトレースしながら、自分たちなりの規模で考えながら、子どもの『やってみたい』を育む場所を作っていってくれたらなあと思いますね。多分、入り口としては、いま、子ども食堂がそういう役割を担っているのかな」
子どもの屈託ない素顔を映せるのは、僕の影が薄いから(笑)。
──なるほど。例えば重江監督は前作『さとにきたらええやん』では大阪市西成区の釜ヶ崎地区で、年齢、国籍問わず、無料で子どもを受け入れている認定NPO法人のこどもの里で2年間カメラを回していましたが、今作もそうですけど、子どもが全然カメラの存在を気にしてないじゃないですか。今時の子どもたちは生まれたときからのデジタル時代、スマホ世代でなので自撮りの文化もあって、自分を盛って映像に残すという技が身に付いているのに、どうやってそういうのを剥ぎ取っているんですか?
「一つは、僕の影が薄い(笑)」
──そうなんですか?
「あと、ずっと当たり前にカメラを持って喋ってるんで、カメラの前でも当たり前の顔をしてくれるというか」
──ゆめパで出会った子どもたちには、自分が何者だと説明されているんですか?
「映画を撮りに大阪から来ましたと、みんなの前で自己紹介をさせてもらいました。子どもたちは、映画を撮る目的を話せば、ちゃんとわかってくれると思っているんです。みんなには、『きみたちにとってはゆめパって当たり前にある場所だけれど、日本の他の子どもの大半には、こういう場所がない。でも、こういう場所を必要としている人たち、子どもたちが全国にたくさんいるから、みんながいかに過ごしているかの様子を撮らせてもらって、映画にして、ゆめパみたいな素敵な場所が増えたらいいと思ってきました』というような説明をすると、『うん、うん、なるほど』って。
みんなゆめパが大好きだから、そう言われるだけでテンションが上がりますよね。逆に当たり前に過ごし過ぎて、撮影3年目の終盤のときに、ある子どもから、『で、何を撮ってんの?』と今更ながら聞かれて笑いましたけど、これだけずっと密着してたのに、あれなんだったんだろう(笑)」