40年ぶりに組み立ててみる
ツバメ玩具製作所の『ソフトグライダー』の袋を目にした瞬間、まるで街角で古い幼馴染みと再会した時みたいに「おおっ」とつい声を出してしまった。
今でも袋の表に描かれたクラッシックなイラストは健在で、裏面の注意書きが、ふりがな入りで書いてある親切ぶり。価格は当時50円くらいだったと思うが、現在は100円だ。そして何歳の子どもでもわかるように、組み立て方がイラストで描いてある。
袋の蓋を開けてテーブル上で逆さにしたら、安い折り詰め弁当の容器と似た素材の機体パーツ、そしてプラスチック製のプロペラ部品が転がり落ちた。これ以外に機体前にはめるオモリのクリップがあるが、それを袋の中に残したまま撮影したのに後で気づいた。
切り込みに沿って胴体に穴を開け、翼を差し込んでいく。プロペラは3つのパーツを組み合わせるだけ。パーツ同士を組むと、スカスカでもカタ過ぎもしない絶妙なサイズ感。撮影込みで、完成までの所要時間、約3分。
子どもでも失敗しないで組み立てられるのが嬉しい。完成した飛行機は軽い。そしてペラいが、この軽さとペラさが、この価格で実際に飛ばせる模型飛行機を実現したのだろう。
飛行機の名は「メッサーシュミット」であるらしい。メーカーのHPによれば、他の名前、デザインの飛行機が数種類ある。https://tubamegangu.com/
行きつけの駄菓子屋「BOWWOW316」の店長によれば「自分が知る限り、こうした飛行機のメーカーはこのツバメ玩具製作所だけ。昔から変わることなく、ソフトグライダーを作り続けている」とのこと。
現在、埼玉県戸田市にあるツバメ玩具製作所は、戦後間もなく組み立て式の木製グライダーの制作から始まり、以来70余年、ソフトグライダーを作り続けているそうだ。
ソフトグライダー、数十年ぶりの離陸
子どもの頃はそんな歴史あるメーカーの作品とは知らなかった飛行機を、40年ぶりに外で飛ばしてみることにする。撮影に協力してもらった最近の遊び友達M君(43)も、この製品を見せた瞬間、「おおっ」と声を出し、非常に懐かしがった。
何十年も飛ばしていなかったのに、飛ばし方は体が覚えている。胴体を水平な鉛筆持ちで握り、ダーツのようにふんわり投げるのだ。ほぼ無風の公園の中、メッサーシュミットはスイっと空に向かい、そして急にポトッと落ちた。
「あれ? 飛ばし方間違ってないか? こんなもんか?」とM君。試行錯誤してみたのだが、何度やっても飛距離は数メートル。結局、M君と"こんなもんだった"という結論にたどり着いた。
子どものおもちゃがそんなに遠くに飛ぶはずも、こんなに安く買えるはずもない。ソフトグライダーはあの頃の、少ない人数で遊ぶ手段であり、ボール遊びが苦手な私が一人の時間を過ごす相手であり、初めて会った姉妹たちとの壁を越えて飛んだコミュニケーションツール。それで十分なのだ。M君ともそんな話をして笑い合った。
数回飛ばしたところで、ソフトグライダーは羽に傷がついて変形した。そのときふっと気づいた。この飛行機、お菓子のように食べてなくなるわけでもないのに、家のなかに残っていた覚えがあまりない。そう長くはもたずに、放課後の数時間で壊れるか、なくしてしまうかしていたのではないだろうか。
ある日の放課後のホスト役を終えたら、記憶に残らないくらいに静かに消え、また、思い出した頃に呼び出されるモノだったのだろう。駄菓子と同じく、ソフトグライダーは私達の過去を彩っては消え、今また思い出と共にふわりと浮かんできてくれたのだ。
文・イラスト/柴山ヒデアキ 取材協力/BOWWOW316