時代劇の主人公のような名字

稀少名字の由来で地名以外に多いのが「分家」。本家と区別するために、同じ読みで違う漢字を当てるケースがある。ある年、森岡さんが甲子園に出場する選手をチェックしていて興奮したことがあるという。

「資料でそういう名字があるとは知っていたんですが、『本当かな』と疑っていたんです。でも甲子園という大きな場で出会うことができて、興奮しました」

その選手とは2014年出場の岩国高(山口)の二十八智大選手。二十八と書いて「つちや」だ。読み方はいたって普通だが……。

「恐らく本家が『土屋』とか『土谷』さんなんでしょう。分家する際に違う漢字を当てたんだと考えられます」

今大会では、大会初日に登場した明豊高(大分)の嶽下(たけした)選手。

「家が崖の下にあったか、『竹下』からの分家だと思われます」

嶽下選手は下の名前もすごくて(?)、なんと「桃之介」。「嶽下桃之介(たけした・もものすけ)」とは、まるで時代劇の主役みたいな名前ではいなか。初戦では居合抜きの達人よろしくバット一閃、タイムリー二塁打を放ってチームを勝利に導いた。

森岡さんが高校野球の稀少名字に興味を持つきっかけとなったのが、1973年の銚子商(千葉)の多部田(たべた)英樹選手。あの江川卓の作新学院(栃木)に勝ったチームだ。

「ラジオで実況を聞いていたら、アナウンサーが『ライトフライをたべた』と言ったんです。『捕る』を『食べた』と形容するのは変だなと思っていたら、ライトを守っていた選手の名前でした。それから甲子園は稀少名字の宝庫だとわかり、いろいろ例を集め始めたんです」

その森岡さんでさえ、「由来がまったくわからない」という屈指の稀少名字の野球選手がいる。ロッテオリオンズなどで活躍した定詰(じょうづめ)雅彦(広陵高・広島)さんだ。長くプロ野球で活躍した有名選手なので、ファンならみな読める。それが「稀少」とは意外だ。

「由来がわからないし、『定詰』という名字もたぶん、このご家族しかいないと思う。このぐらい稀少になると、本人の家になにか言い伝えとか残っていないとわからないですね」

定詰さん、もし残っていたら森岡さんまでご連絡を!