地図すらない、100年前に作られたNYの地下システム
新鋭セリーヌ・ヘルド&ローガン・ジョージの初監督作品『きっと地上には満天の星』が素晴らしい! かつてNYに実在した地下コミュニティに、今も暮らしている設定の母娘が主人公。彼らが新しい一歩を踏み出すまでを感動的に描いた作品だ。母親のニッキー役には監督のひとりセリーヌ・ヘルド自身が扮し、映画初出演ながら天性の輝きを示す娘リトル役のザイラ・ファーマーとの息の合った演技で、観客の目を釘付けにする。
世界中の大都市に地下鉄システムは存在するが、NYの地下鉄ほどミステリアスで恐ろしく、しかも魅惑的な空間はほかにない。今から100年も前の1920年代初めに作られたNYの地下鉄(MTA)は現役で稼働している一方、既に廃線となって打ち捨てられたトンネルも多くある。地下空間の正確な地図はなく、市当局も全容を把握している訳ではないという。そこに、かつては何千人もの人々が地下コミュニティを形成し、暮らしていた。
過去にも、NYの地下に迷い込んで暮らし始める子どもを描いた小説として、フェリス・ホルマン著・遠藤育枝訳『地下鉄少年スレイク――121日の小さな冒険』(原生林刊)や、そのテレビ映画化であるギルバート・モーゼス監督の『Runaway』(1989/日本未公開)、そしてサム・フライシャー監督『Stand Clear of the Closing Doors』(2013/日本未公開)といった佳作が作られてきた。
ところが本作は、迷い込んだのではなく、元々NYの地下で暮らしてきた母娘ふたりの物語。そして、初めて地上に出た娘リトルが、母親とはぐれてしまったときに遭遇する危険と戸惑いをリアルに描いている。――ある意味、NYという都市そのものが主役でもある本作について、セリーヌ&ローガンにインタビューした。ふたりの言葉を紹介しつつ、本作の見どころを解説したい。