高校球児の安全が守りきれない
また、これほどの大量得点差には、懸念しなければいけないことがいくつかあることも事実だ。
その一つに、先に書いたような技術レベルの差によって生じる「事故の危険性」だ。
2019年夏の甲子園、1回戦・岡山学芸館対広島商の試合で、広島商の打者の打球が岡山学芸館の投手の顔面に直撃したことがあった。
命に別状はなかったが、日本高野連は恐ろしいほどの打球が球児の顔面に直撃するシーンを目の当たりにして、金属バットの仕様変更に踏み切っている。
この事案は、全国大会に出場している学校同士の試合で起きたことだ。これにより新たなルール設定につながったが、実力差があった場合、その危険度は金属バットの仕様を変更したからといって守られるものではない。
強い方のチームが放った痛烈な打球を、野手がグラブに収められず頭部直撃した場合、どんな災難が待っているかは容易に想像できるだろう。
また、千葉学芸対わせがくの試合がそうであったように、1イニング30得点が2イニングも続くということは、それだけ守備時間が長いということでもある。炎天下の中で何時間も守備に立ち続けていたら、熱中症のリスクが高くなる。事実、この試合では数名の選手に足の痙攣があったという。
そして、投手の登板過多も危惧される。82得点も失ったということは、その分、投手は投げなければいけない。昨今は投手の登板過多について、高校野球界では議論が激しくなっているが、大量得点差試合では投手の球数が多くなってしまい、時代に逆行したことを招く危険性もあるのだ。
大量得点差が起きるのは、両校に「取り組みの差がある」と片付けることもできるかもしれない。しかし、そこに死の危険性、高校球児の身の危険があることを理解しなければならないのではないか。