技術の進歩に脳も身体も追いついていない
<こんなに快適に暮らせるようになったのに、私たちはなぜ気分が落ち込むのか>
という疑問がハンセン氏の『ストレス脳』の執筆のモチベーションだったという。快適な暮らしは、日本人をはじめ世界の人びとの健康寿命も伸ばしている。かたやストレスやうつを訴える人は増えている。この状況をどう捉えたらよいのか。
「私たちは、あらゆる技術を使って、人間にとって大事なことを人生から締めだしてしまったのではないでしょうか。直接、会わなくても済むようになって孤独になってしまったり、ドアが勝手に開いてくれる生活様式をつくって運動しなくなったりといったことです」
寿命が伸び、かつストレスやうつが増えているとしたら、理屈的には、心の状態がよくないまま長く生かされつづけてしまっている現代人像が浮かんでくる。
私たちはどういう状況にいられたらよいのだろう。
仮にサバンナ時代に戻れるとしたら、現代のストレスから解放されるから、それが理想的なのだろうか。
「いいえ。サバンナ時代に戻るべきではありません。祖先の人生はとても辛いものでした。生まれてすぐの子がたくさん死に、平均寿命もせいぜい40歳でした。そういう状況には戻りたくないでしょう。技術は進歩し、ものすごい速さで変わる社会のなかで、私たちは生きています。けれども、私たちの脳や身体はなにも変わっていない。この矛盾を考えつづけることが大事なのです」
取材・文/漆原次郎 通訳/久山葉子