2022年7月6日、集英社および一ツ橋綜合財団が主催する「第20回開高健ノンフィクション賞」の選考会が行われ、その受賞作が決定した。

「開高健ノンフィクション賞」は、旺盛な探究心と人間洞察の結晶を作品に昇華し続けた作家・開高健の功績を記念して創設されたもの。従来の枠にとらわれない、広いジャンル、自由なものの見方・方法によるノンフィクション作品を毎年募っている。

応募総数137編の中から、映えある第20回目の受賞作品として選ばれたのは、現在30歳のフリーライター・佐賀旭による『虚ろな革命家たち ――連合赤軍森恒夫の足跡をたどって』。連合赤軍のリーダー・森恒夫を題材とし、その生涯を追いながら、現代の若者たちの苦悩や日本社会が抱え続ける問題をも浮き彫りにする作品となっている(梗概は以下に記載)。

受賞作には正賞として記念品、副賞として300万円が贈られる。選考結果は集英社学芸編集部ホームページ上(7月下旬)、集英社クオータリー「kotoba」秋号(9月6日発売予定)、「小説すばる」10月号(9月16日発売予定)、「青春と読書」10月号(9月20日発売予定)にて発表予定。

『虚ろな革命家たち ――連合赤軍森恒夫の足跡をたどって』梗概

大学院で学生運動について研究を進めていた筆者は、ある手紙に出会った。父から子への想いが綴られているその手紙は、12人の同志を殺害した連合赤軍のリーダー、森恒夫によって書かれたものだった。
ヘルメットとゲバ棒に象徴される日本の学生運動は、1960年代末に暴力革命が提唱されるようになるとより先鋭化していった。なかでも連合赤軍という新左翼組織は、あさま山荘事件で警察と銃撃戦を繰り広げ日本全国に衝撃を与え、 さらに山岳ベース事件で「総括」という同志殺人が発覚すると、それまで続いてきた学生運動に致命傷を与えた。その連合赤軍を率いていたのが森恒夫と永田洋子という二人の指導者であった。
筆者が学生運動に関心を持ったきっかけは、三里塚を取材で訪れたことだった。今でも滑走路の中心に佇む鉄塔を目撃し、そこで50年前の学生運動が、自分が今立っているこの場所で起きたということに衝撃を受けた。学生運動の調査を進めるうちにその衝撃は、当時の若者たちはなぜ高度経済成長期の安定した生活を捨て学生運動を起こしたのか、なぜ現在の若者たちは今の社会に希望を持てないのかという疑念へと変わっていった。
そこで行き着いたのが森恒夫だった。学生運動を衰退させ、後世の若者たちの政治意識にも影響を与えた連合赤軍事件。それを引き起こした森は、多くを語ることなく、事件から1年後に拘置所内で自ら命を絶った。あの事件がなぜ起きたのか、50年が過ぎようとする今でも明確な答えは出ていない。
森恒夫という青年は、なぜ革命に身を投じたのか、 12人の同志を殺した「総括」はなぜ起きたのか、そして、なぜ自ら命を絶ったのか。筆者はその答えを求めて、森の大阪の同級生たちや、北朝鮮に渡った後輩、「総括」を生き延びた連合赤軍の元メンバーたちと対話する。
そこから明らかになる在日朝鮮人の友人の存在や、それまで語られることのなかった「総括」の真相。
それぞれの視点から映し出される森恒夫に戸惑いながらも、筆者は森と自身を重ね合わせる。それは50年前の学生たちが直面した問題を再考することであり、また現代の若者たちの苦悩、日本社会が抱え続ける問題をも浮き彫りにする。
そして、森が自死の直前に読んでいた聖書の一節を知ったとき、筆者はある答えに至る。


文/集英社オンライン編集部