なぜ停められたのか、わけが分からなかったが、窓を開けると警察官は「左折できませんよ。違反です」と告げてきた。
頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになってしまった僕ちん。
だって、直進レーンから正しい手順を踏んで左折レーンへ移動し、真面目に左折したのに。

僕は警察の勘違いだと思ったので、言われるまま免許証を提示しつつ、「黄色い線はまたいでいませんよ。何か変なことしましたかね?」と聞いた。
すると、警察官は以下のような説明をした。
・僕が踏み越えた道路上の白い破線は、通常の車線とは違う“指導線”というもの。
・指導線とは、停止線より前の通行区分のまま車を進ませるための目安。
・指導線を越えて左のレーンに入り左折した走行は、直進の義務を無視して左折したのと同じ。

指導線ってなに? 同じ白の破線なのに、そんなに意味が違うなんて……

えええっー!?と思った僕は、すぐさま反論をした。
運転席から、あの白破線はレーン移動OKを示す普通の車線に見える。
だから僕は交通ルールに則って、正しくレーン変更と左折をおこなったつもりだ。
この白破線が通常の車線ではなく“指導線とやら”であるのなら、路面表記をもっと分かりやすくするべきではないか、と。

路上でのああでもないこうでもないというやり取りは、30分近くに及んだ。
警察官はとにかく書類にサインをさせようと促してきたが、僕は断固拒否。
そして、用があって急いでいる旨を伝えると、警察官は「では、後日改めて連絡します」と一旦引き下がった。
こうして取りあえず現場を離れることになったのだが、「道路標示の疑問について詳しく話をしたい場合は、どこに連絡すればいいのですか?」と尋ねると、所轄の某警察署・交通規制課に問い合わせるようにと伝えられた。

用事を済ませたあと、教えられた所轄警察署に電話をすると、対応に出たのは交通規制課の課長を名乗る方だった。
課長はまず、
「都道の道路標示については、道路管理者である東京都の管轄だから……」
と、あからさまに取り合いたくないような雰囲気を出してきた。
しかし僕が食い下がって詳しく聞くと、東京都は所轄警察署の指導のもと、道路標示の設定をおこなっているにすぎないということが分かった。

なんだよ……。
やっぱり道路標示の内容は、警察署の交通規制課が決めているんじゃないか。
面倒臭そうなやつだからと、適当に門前払いされかけたことを悟り、僕の“憤り指数”は10段階のうち「3」くらいに上がった。

僕は課長に、現場で警察官に主張したことと同じ内容を伝えた。
しかし取りつく島もなく、
「ダンナの言っていることは、違反逃れの屁理屈ですよ」
と、粗い口調で非難してくる課長。
この侮辱的な一言で、僕のハートに火がついてしまったのだ。
“憤り指数”は一気にマックスの「10」に跳ね上がる。

今回の違反はもし認めたとしても、違反点数1点、反則金6000円。
それをただ逃れたいために、こんな面倒臭いことをするものか。
もっと根源的な問題なのだ。
意地っつうか、プライドの問題なのだ。

本当に久しぶりに頭へ血がのぼった僕だったが、「その言い方はおかしいでしょ。市民からの問題提起をそんなふうにしか扱えないのは、いかがなものかと思いますよ」と冷静に伝えられたのは、我ながら上出来だったと思う。
だが話はやっぱり平行線。
納得できぬまま通話を終えた僕は、「絶対に違反を認めず、刑事手続を求めよう」と心の中で決めていた。