5つの言葉だけを話す友達ロボットとのルームシェア
大切な友達から嫌われ、ひとりぼっちになった主人公が出会ったのは、5つの言葉だけを覚えて会話するという人間そっくりのロボット。迷った末に購入を決め、二人のルームシェア生活が始まった。少し不思議で優しい気持ちをくれる物語。
この作品はロボットの「友達」をめぐる物語だけれど、いわゆるSFではない。ロボットが突然人格を持ったりはしないし、主人公も、相手に感情がないことをきちんと理解しながらふたりでの散歩やピクニックを楽しんでいる。
ロボットと夜の散歩に出かけたり、部屋でのんびりと自分の気持ちをロボットに話す時間は主人公にとって、心の傷を癒やすための大切な時間だったのだろう。ロボットの製作者や気の合う同僚とのやりとりもあって傷ついた心は少しずつ回復していく。
彼女に登録された最後の言葉とは。ふたりぐらしの行く末は。物語の結末にはつい涙があふれてしまった。時には大切な人との関係がダメになってしまうこともある。そんな経験をしたことのある人にはもちろん、最近やさしさ成分が足りないという人にもおすすめしたい。あたたかな光が差し込むような読後感をぜひ味わってください。
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2022年8月号掲載
選書・原文/花田菜々子 web構成/轟木愛美 web編成/内山英理