同時期の”世界”を知ることで、歴史の”面”を意識

「1185年(もしくは1192年)に源頼朝が鎌倉幕府を作った」と丸暗記するだけでは、よほど覚えやすい事柄以外は忘れてしまう。歴史の面白さは、ひたすら点を打つのではなく、打った複数の点をつなぎ合わせ、面として捉えることで初めて見えてくるものがある。それがわかるのも、この本の魅力だ。

日本で源氏と平家の争いが起こっていた同時期に、世界では何が起こっていたのか。本書では、日本と世界の歴史を同列に示すことで、より多面的に「鎌倉時代とはなんたるか」を見せてくれる。良くも悪くも、世界と日本の違いを知ることができるだろう。

少しだけ視点を広げることで、外から見た鎌倉時代の様子が見えてくる。なんと鎌倉時代の成り立ちには外国(特に東アジア)が関係しているとされ、その観点からの研究も進んでいることがわかる。

鎌倉時代のことを学ぶなら、鎌倉時代だけに焦点を当てた方が効率が良いと思われるかもしれない。しかし、外国と日本の関係性を捉え直すことで、当時の将軍や御家人たちが何をしようとしていたのかも見えてくる。

そうすることで、私たちにとっては「教科書に載っている歴史上の人物」にしか過ぎない彼らが、実際に生きていた命ある人間だったということに気づくことができるのだ。

外国との繋がりを増やし、貿易を盛んにすることで、日本のさらなる発展を目指した向上心。それらを感じることで、より歴史が体温を帯びてくるだろう。

史実を踏まえながら『鎌倉殿の13人』を楽しもう

歴史を面で捉えながら、鎌倉時代を生きた人々の関係性にも目を向けてみる。

本書で史実のポイントを抑えながら、改めて大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を見てみると、なんとも味わい深い。

ここでは例として、源頼朝の挙兵を後押しした人物・上総広常を挙げよう。

関東に名を轟かせていた豪族・上総広常(かずさ ひろつね)は、源頼朝が挙兵し平氏を脅かす動きを助けた立役者。大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では俳優・佐藤浩市が演じている。頼朝にとってなくてはならない人物の一人と思われるが、1184年に起こった一ノ谷の戦いの後、事件は起きる。

源義経の尽力もあり、この戦いで源氏の力を大いに見せつけた頼朝。武士の御家人化を進め、どんどん軍事政権の形を整えていった。その過程で、自身の脅威となり得る人物は早々に処分する残酷さも見せたのである。御家人を統制する一環として、少々自由すぎた広常は、頼朝の命令により殺害されてしまうのだ。

その凄惨な最後については、ドラマの第15回「足固めの儀式」にて描かれているのだが、本書とドラマを合わせて見ることで豊かな背景が浮かび上がってくる。

そのほかの点についても同様だ。ドラマで描かれている時代背景や人間関係と、史実の間にはどのような違いがあるのか。焦点を当てる人物を変えてみることによって、歴史は広がりを見せる。

鎌倉時代における要点をわかりやすくおさえた本書だからこそ、無用な先入観は排したうえで、しっかりと歴史に向き合えるのである。

史実を知ったうえで見ると、さらに面白さに奥行きが生まれる『鎌倉殿の13人』。おともには、ぜひ『一冊でわかる鎌倉時代』をおすすめしたい。

文/北村有