影のあるヒロインと
チームで動く面白さ

――ヒロインの千景は、18歳にしてスキップでイギリスの大学院で学んだ秀才でありながら、両親の離婚により祖父母に育てられたり、身代金目的で誘拐された過去の記憶を失ったりしているといった少し影のあるキャラクターとなっていますね。

 このシリーズの第一弾(『異人館画廊 盗まれた絵と謎を読む少女』)はコバルト文庫で出したこともあり、主人公は少女がいいなと考えたところから始まりました。少女ながら図像術を理解していて、対応していくためには、高度な知識を持ったちょっと特殊な能力のある女の子という設定が必要になってきます。天才的な才能があって大学院で専門的な研究をした少女というのは、日本ではなかなか難しいので、イギリスに留学させてみようという設定が浮かんでくるわけです。また特殊な才能があると、やはりあまり周りになじめなくて悩みも大きいでしょうし、両親の不和や誘拐事件のこともあり日本を離れたくなったという理由づけもあって、だんだん千景のキャラクターができていきました。

――その千景を支える「キューブ」というグループが登場します。美術サークルという名目ですが、老舗画廊の跡取りとして美術界の第一線で働く透磨のほか、占い師として活躍中の彰、役者としての演技力を持つ瑠衣、コンピュータやインターネットに詳しいカゲロウ、そして千景の祖母であり異人館のオーナーとしていつも美味しいお茶とお菓子を用意する鈴子という年齢も立場もバラバラのチームで事件を解決していくことで、シリーズが展開していますね。

 キューブのメンバーはそれぞれわかりやすい特技を持っていて、読者からすぐ頭に思い浮かべてもらえるようなキャラクターにしようと考えました。物語の中でそれぞれのキャラクターを事件の解決とリンクさせつつ、この人がこういうことができたらいいな、面白くなるだろうなと、だんだん肉づけしていったという感じですね。メンバーはすごく変な人たちですけど、精神的にはみんな大人なんですよね。突飛なことをしつつも、ちゃんと世間をわかっていてしっかりしている部分を書こうと意識すると意外な面白さがありました。少女である千景の周りを、仲間である大人たちが固めている感じがすごく面白くて書きやすかったです。千景に関しては、主人公として物語を引っ張っていくだけの魅力を書きたいと思う一方で、読者に何か共感してもらうというキャラクターではないので、主人公として一人で動くよりは、チームのみんなで動いて進めていく話にしたかったんです。その分、千景は我が道を行ってもらっていいわけです。

――透磨との関係は単純なカップルではない、失われた記憶の部分の謎や現実でのそりの合わない部分なども含めて絶妙な距離感で描かれていますね。

 ヒロインの相手となる男の人は、ヒロインとのバランスで考えていくところがあるので、千景の場合はどういう人だとうまくやっていけるか、物語をうまく運んでいけるキャラクターになるかと考えながら透磨の人物像を作っていきました。透磨は7つ年齢が離れているということもあって要所要所で千景を補助していくのですが、いわゆるカップルではない感じを出したくて、年上の透磨の方が常に千景に敬語で接しているような書き方をしたんです。相手の心に触れられない部分があるゆえの距離感というのが今までにない新鮮な感じで、自分の中では面白いと思って書き進められた気はしますね。

──花咲き乱れる洋館「異人館」という舞台もストーリーに重要な影響を与えているように読めます。舞台は明確に書いていないけれど、洋館のある異国情緒あふれる港町ということで実在の都市を思い浮かべる読者もいるかもしれませんね。

 花がたくさん咲いている洋館の中で美味しい紅茶とお菓子をいただくというのは、自分にとって憧れのある、大好きなシチュエーションです。洋館のある異国情緒あふれる港町という意味でのモデルとした街はあるんですけど、現実にある街とよく似ていても私の頭の中にあるイメージで書いていてちょっと違う部分もあるから、あえて地名は書かないようにしました。本文中には周辺の都市や現実にある場所も出てくるんですけれども、その距離感や場所のイメージも含めて、どこか現実にありそうでなさそうな、ここに出てくる登場人物が住んでいるような想像の中の楽しい街を思い浮かべてもらえたらいいなと思います。