音を「飛ばせない」楽しみ

ひとつは世代的な背景だ。CDが音楽市場に浸透したのは80年代後半。それ以前にアナログレコードに親しんでいた音楽ファンは、今はもう50歳代になっている。そうしたオヤジ世代がアナログに回帰するのは、ある意味ノスタルジーと言えるだろう。

でも昨今のアナログブームを支えるのは、圧倒的に若い世代だという。米国の調査機関によれば、米国のレコード購入者の約6割は、30代前半以下。つまりレコードを知らない世代が、まったく新しいツールとしてアナログ盤の魅力に触れているのだ。

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中森明菜や竹内まりやなど、懐かしいジャパニーズ・ポップスのレコードも(撮影協力/HMV record shop 新宿ALTA)

レコードの最大の魅力は、音の良さである。物理的には、CDのシャープなデジタル・サウンドに勝るはずはないのだが、CDは人間が聞き取ることのできない20kHz以上の高周波域をカットしている。それが影響しているのか、硬質でキツい音と認識されてしまうのだ。

対してアナログは、レコード針と盤との接触音=ヒス・ノイズや、盤面に付着したチリやホコリを音として拾ってしまう欠点があるのに、それを含めて“柔らかくて耳に優しい”とされる。

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若い世代には「新鮮なツール」と受け止められているレコード・プレイヤー(撮影協力/HMV record shop 新宿ALTA)

レコード盤をターンテーブルに乗せて針を置くと、パチパチとスクラッチ音がして音が鳴り出す。そのジャケットの手触り、ハンドメイド感。CDならばワン・プッシュでスキップして簡単に好きな曲、好きな部分だけを選べるが、レコードだとプレイヤーの前へ行って、自分で慎重に針を動かさなければならない。そうした手間が、逆に音楽への愛着を深めていくのだ。

「ギター・ソロを飛ばす」のと真逆の楽しみ方

最近、「今ドキの若いリスナーは、ギター・ソロが出てくるとそれを飛ばしてしまう」なんて話題がSNSでバズった。でもそれができるのはデジタルだから。アナログLPなら、作り手はA面B面それぞれの曲順を考え、ストーリーを忍ばせて“作品”を創り上げる。リスナーはそれを受け止め、作り手の意図に考えを巡らせる。だからアーティストもリスナーも成長し、アーティスト・パワーは増幅される。

30cm四方という圧倒的な大きさのパッケージも魅力的だ。ジャケットが一種のアートと見なされ、音楽の持つ作品力やストーリー性、そこに込められたメッセージを、ユーザーに視覚でダイレクトに伝えるのである。

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レコードジャケット自体にアート性を感じるユーザーも多い(撮影協力/TOWER RECORDS新宿店)

こんな風に、形のない音楽がパッケージとして形と意味を持った時、人は音楽を“モノ”として認識し、所有の喜びを感じ始める。デジタル世代は、その70〜80年代的「音楽」の感覚を得て、かつて体験したことのない新しいモノとして受け止めている。

入り口として、1〜2万円で購入できるリーズナブルなアナログ・プレイヤーが用意されるようになったことも、彼らを後押ししている。いま大ブームにあるシティ・ポップ熱再燃も、また然り。そこでイメージされる永井博や鈴木英人のイラスト・ジャケは、70〜80年代文化のアイコンだ。