女王のパーソナリティを探る上で、馬はとても重要なアイテム
──日本での報道ではなかなか出てこない、プライベートの時の表情がとても印象的でした。特に『馬上で In the saddle』というチャプターではエリザベス女王と馬の親密で特別な関係が紹介されていて、競馬でレースを見ている様子や、馬券が当たったときの表情などとりわけチャーミングな姿が多かった印象を受けました。海辺での乗馬シーンなどとてもお上手でいらっしゃるんですね。
「女王の馬好きは英国ではよく知られています。競馬の大会にもいらっしゃるし、乗馬も小さい時から大好きで、数年前までは乗馬をしている姿もよく見られていました。最近も去る5月にウィンザー城のすぐ近くで開催されたロイヤル・ウィンザー・ホース・ショーの会場に姿を見せ、女王の所有するハイランドポニーのバルモラル・レイアが優勝して、トロフィーを受け取り、とても喜んでいる96歳の姿が見受けられました。
女王のパーソナリティを探る上で、馬が重要であることは知っていたので、リサーチャーには馬関連の映像を集めてもらい、そこからより深掘りして、貴重な映像を探してもらったんです。このやり方が今回の映画作りのプロセスとなりました。集まった映像を見始めると、『馬』、『衣装と色使いの関係』など項目が浮かび上がってきて、そこを深堀りする形を取りました」
──他にはどういうプロセスを経て、テーマを決めていったのでしょうか?
「例えば『ローマ市民 Citizens of Rome』のチャプターでは、女王が訪ねた先の部族の独特のダンスがフィーチャーされています。1950~60年代の彼女は英連邦諸国(コモンウェルス)に所属する国々に赴き、その訪問先での映像を眺めているうちに、カテゴリーが見えてきました。テーマを決めると、リサーチャーにさらに具体的な注文を提示して、珍しい映像を集めてもらい、こういう形になりました」
公務においてずっと同じような服装をし、役割を果たしている。エリザベス女王の公務での存在は全く揺らがないし、変わらない。
──エリザベス女王の残像イメージがエンターテイメントや映画界にどれほどの影響を及ぼしているのかがわかる映像フッテージも多いですね。日本では2016年に公開された『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』は、イギリスがドイツに勝ったヨーロッパ戦勝記念日(VE-Day)の夜、まだ女王となる前夜のエリザベス2世と、妹のマーガレット王女が外出を許され、臣民と共に戦勝を祝ったのではないかという史実に着想を得た作品と聞いておりますが、その映像も使われていますし、その夜をモチーフにしたと言われるオードリー・ヘップバーンの『ローマの休日』の映像も登場します。
つまりはエリザベス女王のイメージが映画史を変える作品のモチーフとなっていると仮説が立てられますが、映像と女王との関連性をどう思いますか?
「確かに『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』は、お忍びでヨーロッパ戦勝記念を一般市民と祝福したというエピソードが基になっていますが、本当のところ、それが実話かどうかはわからないんですね。ピーター・モーガンの原作・脚本による、米英合作のテレビドラマシリーズ『ザ・クラウン』(英語: The Crown)とやっていることと同じで、一般市民が抱く女王はこうじゃないかという想像を逆手にとって、エリザベス女王をあるシチュエーションに置いてみて、行動や心の中を憶測してみるという手法ですよね。
今回はより、女王の影響が映像と繋がりがあるんじゃないかという提示の仕方をしています。先程も言いましたが、エリザベス女王がイコノグラフィーの対象であるところは面白いですよね。例えば切手、スタンプのモデルにずっと使われていて、年齢に応じて変化もしているんだけど、やっぱりどこか一点、女王は女王であるというイメージが残り続けている。制作している人たちが継続性を大事にしているからだという点もあるけれど、同時に、エリザベス女王が公務において、ずっと同じような服装をし、同じような役割を長年にわたって果たし続けているから、というのもあるんですね。
グラマラスなプリンスから今はしっかりと年齢を重ねた女性になっているわけだけど、公務での存在としては全く揺らいでないし、変わっていない。それがイコノグラフィーとして表されていると感じます」