借り物の言葉を捨て、生身の実感へ

奇妙 この映画、『警察24時』とか「万引きGメン」みたいなドキュメンタリーが好きな人にも観てほしいですね(笑)。「えっ、現場でこんなことしてたんや!」って絶対に食いついてくれると思う。権力のやってることって、一般が思っているよりもずっと強烈でやり過ぎだし、「こんな無茶苦茶が普通にまかり通っているんや」という現実に、みんなが驚くはずです。知らないうちに、しれっと裏で進められていることの怖さというか。

猪股 僕が10年前に取材を始めた時も、賛成・反対の前に「まず事実をベースに議論できる土台を作らなきゃ」という思いからでした。右とか左とか関係なく、事実を知れば「これはあまりに理不尽だ」と分かるはずなんです。「中国の脅威」を理由にすべてを正当化しようとする言説もありますけど、これだけ事件や事故が放置されたら県民が基地に反発するのは当たり前で、むしろ防衛の観点から見ても逆効果じゃないかと。米軍の特権や理不尽をなくすことは誰にとっても望ましいはずなのに、日本政府はそこから目を背け続けている。

奇妙 足元のそういう矛盾を放置したまま、アメリカの大統領選の結果ばかり気にして一喜一憂しているのを見ると、本当に滑稽やなと思いますね。

───国家や権力と一体化して「勝った側」に乗っかることで、「自分は正しい」「自分は正義」みたいに思考停止してしまう人が増えている。奇妙さんが感じる居心地の悪さは、そうした「自分の頭で考えず、反省もしない空気」に対する違和感なのでしょうね。

猪股 もちろん国の姿勢が圧倒的に不誠実なんですが、一方でリベラル側の言葉が判で押したようなお決まりのフレーズばかりになってしまうのも、僕はすごく危ういと思っていて。僕自身、現場を10年撮り続けていても、いまだにシュプレヒコールには馴染めないんです。紋切り型のスローガンではなく、一人ひとりが自分の実感に基づいた言葉を持たなきゃいけない。実際、僕のこの映画に登場する人たちは、みんな自分自身の言葉で語っている人たちですから。

奇妙 そうですね。映画に出てくる人たちって、お仕着せの言葉じゃなくて生身の実感で喋っているからこそスッと入ってくるというか。

 だからこそ、映画の中でデータや数字がポンと出された時に、「あ、本土に住む人たちに実感が湧かないよう、巧妙にしわ寄せを沖縄に押しつけてきたんやな」っていう構造が余計に際立って見えたんですよね。昔は本土にもたくさんあった米軍基地が、住民運動や事件をきっかけにどんどん減っていった歴史もありますよね。

猪股 そうなんです。かつては本土の代々木公園や立川、茅ヶ崎なんかにも広大な基地があって、今の沖縄と同じように事件や事故の被害が多発していた。それが本土復帰と前後して、米軍施政下だった沖縄へ、基地がどんどん押し付けられていったという経緯があるんです。

奇妙 一気にすべてを解決するのは難しいかもしれないけれど、自分ができる範囲で、しれっとやれることをやっておきたいなとは思います。本当に難しい問題ですけど。

───「反省しない強権」に対して、猪股監督は迷い、現場で揺れながら「これはおかしいんじゃないか」という自分の実感から映画を立ち上げている。見えているつもりでも実は知らないことばかりだと気づかされる、まさに『私がまだ知らない沖縄』というタイトル通りの作品だと感じます。

猪股 きっとこれからも、撮り続けていくんだと思います。本当は、僕みたいな人間がこんな映画を撮らなくて済む世界が一番なんですけどね(笑)。

奇妙 本当に。みんな普通に、のんきに暮らしたいだけですから(笑)。

猪股 なんにも撮る必要がない平和な世界が来てほしい。でも、理不尽な現実が続いている以上、カメラを回し、事実を記録して伝えていく責任があると思っています。知ることからしか変化は始まりません。ぜひ劇場に足を運んで、いまの沖縄のリアルを体感していただけたらと思いますね。

構成/浮島さとし 撮影/五十嵐和博

「あれのどこが暴力集団なんだよ」辺野古で座り続ける高齢者たちを10年撮り続けたジャーナリストが見た現実 「私がまだ知らない沖縄」_8
すべての画像を見る