ある朝、目覚めたら……
O教授の開口一番。
「昨日の朝のことやねんけど、私が不安な夢からふと目覚めると、ベッドの中で私の姿が一匹の、とてつもなく大きな毒虫に変わってんのに気がついたんですわ」
「ちょっと待ってO先生、それ、カフカの『変身』の冒頭、そのものちゃうん?」
と僕は思わず、のっけからO教授の話を遮った。
するとO教授は、
「さすがF先生、その通り。でもそれが大事やったんです」
と構わずに話を続けた。
「ほんとうに私、巨大な毒虫みたいな恰好してたんやから」
「へえ、ほな不安な夢ってどんな夢やったん?」
僕がそう聞くと、O教授は、
「それは忘れてもうたんですわ」
と言った。飲みかけた缶コーヒーを思わずふき出すところだった。
O教授が目覚めたのは、もちろん自室であった。
目が覚めた時の言いようのないぼんやりとした感じ、窓から差し込む陽光と、それに照らし出される室内のいくつかのオブジェたち。その有様はいつもの日常そのものだった。ただし、自分の体を除いて。この経験は、これまでの五人の教授たちと同じだ。何も目新しいものはない。
O教授は、最初はほんとうに、『変身』でグレゴール・ザムザが変身してしまったように、ゴキブリかダンゴムシのでかいやつか、その類の何かに変身していたと思ったという。
「細い足が六本か……。ダンゴムシちゃうな、ゴキブリや。そう言えばF先生が、ダンゴムシに感染して青色にするウイルスがいるって言ってたな」
とふと思ったという。
その瞬間、ウイルス? と思って改めて自分の体を眺めてみた。するとO教授はあることに気づいた。
O教授は最初、それが六本あったので、てっきり節足動物の肢だと思っていたのである。だからゴキブリなんちゃうかと思ったが、多くの人間が天敵として忌み嫌うG先生(ゴキブリ)にまさか自分がなるなんて、そんなことあるわけないと思ったという。
どうもそうではなく、その肢のようなものは、細かい物質がつながってできた、折り畳みができる物干し竿のようだということに気づいたのである。
そして自分のずんぐりとした文字通りの寸胴の体の先端部、つまりお尻のあたりに、円盤のようなものがあって、そこから放射状にくっついていることにも。
もしゴキブリやダンゴムシだったら、肢は体を作る体節から伸びているはずだったが、どうやらそうではないし、そもそも自分の体は体節からできてなさそうだった。
よく見ると、これも細かい物質がたくさん積み重なってできた(ただしよく見るとばねのようにらせん形をしていたらしい)、ちょっと細めの寸胴だったのである。













