「冷たいから安心」ではない
体調を崩した人の多くが「冷やしカニラーメン」を食べていたと報じられている。ただ、8月30日時点で港区は、原因となった食品や細菌、ウイルスなどを特定したとは発表していない。
いまの段階では、あくまで食中毒が疑われる事案として調査が続いている。それでも今回の一件は、ひとつの疑問を浮かび上がらせた。
なぜ、真夏の屋外イベントでは「冷やしラーメン」をあまり見かけないのか。
大規模なラーメンイベントを見ても、冷やしメニューは意外なほど少ない。「東京ラーメンフェスタ2025」では、10月23日から11月3日まで3幕に分けて全国のラーメンが並んだが、公式サイトに掲載された出店メニューを見る限り、「冷やしラーメン」を前面に出した一杯は確認できない。
大阪・万博記念公園で開かれる「ラーメンEXPO」も冬場の開催だ。
もちろん、単純に季節の問題は大きい。肌寒くなる時期に、客が求めるのは湯気の立つ一杯だろう。ただ、それだけではない。冷やし麺には、温かいラーメンとは違った難しさがある。
厚生労働省は、食中毒菌について「20~50℃の温度帯でよく増えます」と注意を呼びかけている。調理済みの食品についても、「速やかに10℃以下まで冷やすか、65℃以上で保管」することを求めている。温かい料理なら、しっかり火を通し、そのまま高い温度を保って提供することができる。
ところが冷やしラーメンでは、そうはいかない。茹でた麺、火を入れたスープ、加熱した具材。それらを今度は「食べやすい冷たさ」まで下げる必要がある。
しかも、ただ冷ませばいいわけではない。ゆっくり冷めていく間に、食品が菌の増えやすい温度帯に長くとどまれば、そのぶんリスクは高まる。
厚労省の「大量調理施設を対象とする衛生管理マニュアル」では、加熱した食品を冷却する際、「30分以内に中心温度を20℃付近」、または「60分以内に中心温度を10℃付近」まで下げるよう工夫することが示されている。
店の厨房なら大型冷蔵庫や急速冷却機を使うこともできる。だが、炎天下のイベント会場で何百杯も注文が飛び交うなか、大量のスープや具材を一気に冷やし、その温度を保ったまま提供し続けるのは簡単ではない。
冷やしラーメンのように、加熱した食材を冷却して提供する料理では、加熱だけでなく、その後の「急速な冷却」と「低温での保持」まで含めた温度管理が重要になる。













