「自転車修理は俺の天職」――取材時103歳、90年間自転車を直し続けた石井誠一さん

東京都墨田区の下町にある自転車修理店「石井サイクル」。店主の石井誠一さんは1922年、東京・神田生まれ。13歳で自転車修理の世界に入り、取材した2025年には103歳。実に90年にわたり、自転車と向き合い続けていた。

石井誠一さん(写真/本人提供)
石井誠一さん(写真/本人提供)
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「自転車をいじっているときが一番楽しいんですよ」

幼いころから「自転車の修理を見るのも、いじくり回すのも好きだった」という石井さん。だが、その人生は決して平穏ではなかった。

1943年、20歳で中国に出征。敵軍の補給路を断つ任務などに就き、終戦後には捕虜生活も経験した。ようやく日本に戻ったのは1946年だった。

戦後、工場で働いた時期もある。しかし、どうにも性に合わなかった。

「工場勤務は全く向いてなかった。そのとき『やっぱり俺は自転車屋だな』って思ったんだよ。いくら儲かったって、好きじゃないと続かない。自転車修理は俺の天職なんだ」

1956年に「石井サイクル」を開業。妻の千恵子さんに先立たれてからも、一人で店を守ってきた。

取材時も日曜と正月三が日を除き、朝7時から夕方6時まで営業。仕事を終えると、歌番組を見ながら焼酎を一杯。休日には自転車で行きつけのスナックへ向かい、4時間ほど歌うこともあった。

長寿の秘訣を尋ねると、「ニンニク」と即答。毎晩、味噌漬けのニンニクを食べ、青汁も欠かさなかった。

しかし、石井さんを103歳まで支えたのは、健康習慣だけではないのだろう。

戦争も捕虜生活も経験し、妻との別れも乗り越えた。それでも好きな仕事だけは手放さなかった。

「やりたいことはもう全部やったしね。だから客が来たって来なくたってどうでもいいんだ。それでも俺は死ぬまで、生涯現役だよ」

長生きするために働くのではない。好きなことを続けていたら、いつの間にか100歳を越えていた。石井さんの人生は、「好きじゃないと続かない」という言葉そのものだった。