(おとこ)たちの人気ランキングはやめて

ところで、三巻に続いて、この巻でもまた宋江に少しイラッとしてしまったんです。李逵が母親に滋養のあるものを食べさせるために宋江たちの魚を奪おうとするんですが、宋江が李逵に、魚を持っていくなら「なにか返しに来い」なんて言わなければ、母親が亡くなってしまうことはなかった。宋江に悪気があったわけではないんですけど。

──李逵、よく宋江を恨みませんでしたよね。

 そう。おまえがあんなことを言ったからだ、みたいになってもおかしくないですよ。

──人のせいにはしないんですよね、李逵は。

いいやつなんです。僕が宋江にイラッとしたのはなぜかなと考えると、宋江は普通の人間っぽくないところがあるからだと思います。言っていることの筋は通っているんですが、その通りに人が動くわけではない。本来、人として感じなくてはいけないものを感じ損ねているのかもしれない。だからこそ、国家に対する叛乱という大きなことを考えられるのかもしれないですが。

──宋江は完全無欠のリーダーというわけではなさそうです。三巻で閻婆惜(えんばしゃく)鄧礼華(とうれいか)が死んだのも、宋江が人の心を読み誤ったからでしたよね。閻婆惜が亡くなったことで、その母親の馬桂(ばけい)の人生も大きく変わっていきます。

馬桂については、李富(りふ)、おまえ、何なの? って言いたくなりました(笑)。

──たしかに(笑)。スパイとして使おうという下心で、李富が馬桂に近づいていきます。

李富は梁山泊の敵方、宋の青蓮寺(せいれんじ)という組織の幹部ですが、上司の袁明(えんめい)にこう言うんです。

「馬桂という女の心を、おまえのものにできるかどうかだ」
(北方謙三『水滸伝』第四巻「道蛇の章」集英社文庫 p69)

ハニートラップを馬桂に仕掛ける。そうしたら、自分が馬桂に対してマジになってしまった。男子がやる色仕掛けは珍しいですね。

──男なんでしょうね。ドラマでも玉山鉄二さんが演じられていますし。『水滸伝』にはいろいろなタイプの男性が出てくるから、「誰推し」みたいなことになっていくかも。ドラマで人気ランキングをやるといいんじゃないですか。

やらないでください、そういうのは!

──史進は上位に入るんじゃないですか。

いやいや。モチベーションが下がりますから。別にモテるために史進を演じているわけじゃないから、それをやると演じる意味が変わってきてしまいます。ランキング上位を狙って、演技をそっち方向に寄せたんじゃないかと思われるのが嫌なんです。「イケメンムーブみたいな芝居してんじゃん」って思われたくない。鼻水流してよだれ垂らしながら泣きたい。イケメンムーブできれいに泣いちゃったら、役としてダメじゃないですか。

──なるほど。でも、鼻水でぐちゃぐちゃな顔にぐっとくる人もいそうですけど。特殊な趣味ですかね。ほかにどんな場面が印象に残りましたか。

晁蓋(ちょうがい)が自分の刀を打つくだりですね。

──いいですねえ。今回、鍛冶屋の湯隆(とうりゅう)がいい味を出していますよね。

湯隆が晁蓋に「鉄と語っておられました」と言うところがすごいいいなと思いました。
(北方謙三『水滸伝』第四巻「道蛇の章」集英社文庫 p169)

晁蓋が鉄を打つうちに心を決める大事な場面。それに、湯隆といえば、医師の安道全(あんどうぜん)に命じられて(はり)をつくるんです。細くて硬い鉄の棒をつくれという命令なんだけど、それって鍼だ。と。

──晁蓋が自分で刀を打って、最後は研ぐんですけど、あれ、北方先生が万年筆でやっていることなんです。

 どういうことですか?

──万年筆をご自分で研いで、スルスルと引っかかりなく書けるようにするそうです。紙やすりを何種類も使って。

えーっ。そうなんですか。

──北方先生はいま「小説すばる」に『水滸伝』とも地続きの小説『森羅記(しんらき)』を連載されていますが、『森羅記』の題字を書かれたTAKAHIROさんとの対談(「小説すばる」2025年1月号)で話されていました。包丁もご自分で研ぐそうです。

北方先生に親近感が湧いてきました。僕の祖父も包丁を研ぐのが好きで、自宅で砥石を使ってちゃんと研いでいました。魚をさばくのも好きでしたから、北方先生と少し似ています。

「鼻水流して泥くさく泣きたい」俳優・木村達成が水滸伝の史進に込める覚悟と、登場人物に感じた純粋さ_3
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聞き手・構成/タカザワケンジ

写真/矢吹健巳〈W〉 スタイリング/部坂尚吾(江東衣裳)
ヘアメイク/齊藤沙織 聞き手・構成/タカザワケンジ

北方謙三「大水滸伝」シリーズ公式サイト
https://lp.shueisha.co.jp/dai-suiko/