教科書はなぜ「一つの見方」しか書けないのか

––––––新装版として発売された『教科書から消えた世界史』について伺います。「教科書から消えた」という言葉には、どのような問題意識が込められているのでしょうか。

教科書はページ数や授業時間の制約もあって、どうしても「一つの見方」しか示せません。そこで「こういう見方もある」ということを提示したいという思いから、このタイトルにしました。

––––––受験の共通の土台として重要な一方で、どの部分が簡略化されがちだと感じていますか。

やはり近現代ですね。他国の教科書を見ると、かなり近現代に重点を置いているものが多い。例えば韓国の教科書は、近現代の比重がとても大きい印象があります。一方で日本の教科書は、そこが比較的あっさりしています。

それから表現の面では、アメリカを強く批判する記述は基本的に出てきませんし、韓国、中国、北朝鮮、台湾といった近隣諸国で問題にならない表現にする必要もあります。そうした配慮が感じられる部分はありますね。

東アジアの世界地図(写真/PhotoAC)
東アジアの世界地図(写真/PhotoAC)
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––––––ウクライナ戦争が将来教科書に載るとして、十分に扱われない可能性がある部分はどこだと思いますか。

それで言うと、9・11以降の出来事はかなりあっさり書かれているんです。なのでウクライナ戦争も、おそらく「ロシアがウクライナに侵攻した」という事実と、その結果がどうなったかという程度の記述になる可能性が高いと思います。

––––––太字で「ロシアのウクライナ侵攻」と書かれて、細部はあまり触れられないかもしれないと。

そうですね。しかも近年は扱う出来事自体が増えています。教科書にはトランプ、バイデン、習近平、反グローバリズムといった言葉も出てきます。

ただ、新しい出来事が増えている一方で、古い時代の内容が減っているわけではありません。結果として、近現代史はどうしても最後に少し付け足されるような形になりがちなんです。

––––––現代の国際情勢を理解するうえでは、近現代史の重要性は高いと感じます。

土井 私もそう思います。ただ学校現場では、現代の問題はどうしても揉めやすいんです。先生方は忙しいですし、保護者からのクレームなども気にしなければならない。

実際に働いて感じたのは、「いかに揉めないか」がかなり重視されているということです。担任や学年主任など役職が増えると、教材研究の時間もほとんど取れなくなります。

その結果、比較的無難な昔の時代を中心に教えておこう、という判断になる先生も多いのではないかと思います。

取材・文/毛内達大

『新装版 教科書から消えた世界史』(扶桑社)
土井昭
『新装版 教科書から消えた世界史』(扶桑社)
2026年2月28日
1,320円(税込)
384ページ
ISBN: 978-4594102227

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