歴史を学んで「自分の軸」をつくる

––––––そもそもですが、土井さんは歴史を学ぶ目的をどのように考えていますか。

「過去を知り、それを未来にどう活かすのか」ということだと思います。それと、世の中にはさまざまな人がいて、いろいろな出来事があります。そうしたものから学び、自分の価値観や軸を身につけることも大事だと思います。

結局、歴史に唯一の正解はありません。例えばイスラエルとイランの問題でも、どちらか一方だけが完全に正しいという話ではないですよね。その中で「自分はこういう軸があるから、こう考える」というものを持てるようになることが大切だと思います。

中東の世界地図(写真/PhotoAC)
中東の世界地図(写真/PhotoAC)

––––––自分の考えをしっかり持つためにも、歴史は有効だと。

例えば現在のイランとイスラエルの問題でも、Xを見ていると「アメリカが悪い」「イランがかわいそう」「民衆がいつも犠牲になっている」など、さまざまな声が上がっています。どれも一面では正しい。ただ、その中でどこに重きを置くのか、自分はどう考えるのかという軸がないと、情報に振り回されてしまいます。

日本の場合、ホルムズ海峡の封鎖で石油がどうなるか、という話にはなると思います。ただ、日本人の命に直接関わるかというと、現時点ではそこまでではない部分もあります。

ただ、もし台湾有事のような状況になれば、日本にも直接関わってくる可能性があります。そうなったときに、自分がどう考えるのかという軸を持っていることで、行動にも影響が出ると思うんです。

––––––受験では正解が求められる一方で、社会では見方が分かれることもあります。歴史学のこの“ズレ”は、生徒にどのように教えていますか。

授業では時間も限られていますし、深い議論をしても直接点数にはつながらないので、基本的には入試で正解になる見方を説明します。

ただ、時間があれば「そうとも言い切れない部分はあるけれど」と少し触れることもありますし、授業後に質問に来る生徒にはもう少し踏み込んだ話をします。

例えばウクライナとロシアの問題であれば、まず教科書的な説明をします。そのうえで「ロシア側はどう考えていると思う?」と問いかけて、別の見方も説明することがあります。

––––––最近は国際情勢も不安定ですが、歴史を知っているかどうかでニュースの見え方も変わりますよね。

当然変わると思います。例えばイランの問題でも、今のニュースだけを見ると「アメリカがひどい」という見方が強い印象があります。

ただ、その前の歴史を見ると、イランもかなり強硬なことをしてきました。1979年のイラン革命では、アメリカ企業の接収や大使館人質事件が起きています。

その一方で、革命前の王政も理想的とは言えません。経済成長はしていましたが、富は王と周囲に集中し、庶民は貧しい状態でした。そうした背景があったから革命が起きたわけです。

––––––深く知るほど、単純な善悪では説明できなくなります。

そうなんです。さらに言えば、中東は民族の構造も複雑です。アラブ人、ペルシア人(イラン人)、トルコ系、ユダヤ人、クルド人など、多様な民族・宗教集団がいて、それぞれ関係が簡単ではありません。

政府の立場と国民感情が一致しないこともあります。例えばサウジアラビアなどはアメリカと協力関係にありますが、国民感情としてはイスラエルに反発を持つ人も多い。

こうした背景も、歴史を知ると見え方が変わってくると思います。