ビジネスとして成り立つ「夜逃げ屋」という日本独特の存在
━━映画にはヤクザから身を隠すため、ブラック企業から逃れるため、借金のため……とリアルな「蒸発者」が登場します。さらに、彼ら彼女らをサポートする「夜逃げ屋」、探偵、息子を探す家族などを取材されています。そもそも映画を撮るきっかけは何だったのでしょうか?
アンドレアス・ハートマン(以下、ハートマン) この映画の前に私は『自由人』という、京都の鴨川にいた青年のホームレスのドキュメンタリーを撮っています。その彼もまた故郷から蒸発したひとりだったわけですが、彼を取材しつつ大阪・西成を訪れたりする中で「夜逃げ屋」の存在に強い興味をもちました。
森あらた(以下、森) 僕はヨーロッパに18年間くらい暮らしているのですが、僕自身が日本社会の窮屈さを感じて日本から失踪したようなものなんです。その経験から、一度、外から見た日本というものを描きたいと思いました。
その一方で、映画を制作するにあたって“外国人が見たヘンな日本”にはしたくない、日本人として共感出来る映画にしたかった。
━━森さんも「蒸発」の当事者だった?
森 当時は半分ひきこもりみたいな状態で、突然自分の意志だけで出て行ったということでは蒸発者のひとりだとこの映画を作るようになって気づきましたね。
この映画の出演者の人たちにも共通することですが、自分をまったく知らない人たちがいる場所に行くと、一回アイデンティティが初期化される。僕の場合、そもそも海外では日本人ではなく「アジア人」として扱われて、それが僕にとってすごくポジティブな経験になりました。
━━ドイツなどで劇場公開されたオリジナルタイトルに「JOHATSU」という日本語を使われているのは、日本の「蒸発」という言い方や現状が特殊なのでしょうか?
ハートマン もちろんヨーロッパでも犯罪以外で失踪するケースはあります。2015年のドイツで、31年前に行方不明となっていた女性が名前を変えて暮らしていたということもありました。
ただ日本のジョーハツが特異なのは、“夜逃げ屋”というビジネスが成立しているということです。私たちが知るかぎりそのような国はなかった。
━━住宅地の一角で、ハンドルに手を置いた女性が車内から周囲を警戒するという冒頭の場面にインパクトがあります。しばらくして男性が駆けこんでくる。やりとりから女性は「夜逃げ屋」で、男性はワケアリの依頼者だとわかる。
森 補足すると海外でも蒸発する人はいることはいるんですが、たとえば激しい喧嘩をするなど大事になった後にと段階を踏むのに対して、日本ではある日突然いなくなる。
周りもそうした「蒸発」を受け容れてしまっているところがあるのは特殊で、世界と違うところではないかと思います。













