イチローに直接聞いた「オンオフの切り替えの真意」

「ミーティングが終わって、部屋に戻る途中のエレベーターホールだったかは曖昧なんですけど、挨拶させてもらって。『よろしくねぇ』みたいに言ってくれたと思います、はい」

その緊張も、代表で同じ時間を過ごしていくうちに親しみと溶け込んでいった。今江にとって衝撃だったのが、イチローのオンとオフの切り替えである。グラウンドの中と外でのギャップがあまりにも違いすぎるのだ。

球場に来る、食事をする、個人でウォーミングを始める。それらの時間と動きは常に決まっている。試合になれば、打席に立つまでにも数多くのルーティンが備わっている。グラウンドでは常に寡黙であり、人を寄せ付けないオーラをその身に宿していた。

それが、プライベートとなると180度、豹変する。いつものクールさは微塵もなく、少年のように無邪気なスーパースターがいた。

引くほどだったと、今江は笑う。

「プロであっても結果を出し続けることって難しいんです。だからグラウンドでのイチローさんは、後悔しないために100%の準備に全精力を注いでいたんだなって。でも、プライベートは……(笑)。初めて食事に行った時のはしゃぎすぎるイチローさんを見て『やっぱ人間なんだ』って、好感を持てました」

第1回WBCで優勝した日本。左から今江敏晃、イチロー、青木宣親、藤川球児(写真/産経新聞社)
第1回WBCで優勝した日本。左から今江敏晃、イチロー、青木宣親、藤川球児(写真/産経新聞社)

WBC期間中、今江は距離を縮めたイチローにどうしても聞きたかったことがあった。

――なんで、オンとオフの振る舞いがあんなに違っているんですか?

イチローは真摯に答えてくれた。

「演じているから。結果を出すために、そうしなければいけないから」

もうひとつ、少年時代のからの思い出も、本人のリアクションが気になっていた。

――僕、イチローさんに「似てる」って、よく言われるんです。

本人が食いつきつつ、投げやりに返された。

「ふざけんな!」

オンとオフ。ふたつの側面を使いこなすイチローらしい反応だった。この憧れのスーパースターと過ごした時間は、今江がキャリアを歩むなかで大きな指標となる。彼もまた「今江敏晃」というプロ野球選手を、前向きに演じられるようになった。

「僕の場合、グラウンドにいる時はトレードマークである笑顔を強調するようになりました。辛くて笑いたくない日とかは、鏡の前でニッて表情を作ってからグラウンドに出ることもありましたね。それって、野球だけじゃなくて人生にも活きることにはなっています」