なぜ「がんが発生した部位(原発巣)」が見つからないのか

 私が驚いたのは、主が入院していた総合病院にPET検査の装置がなかったことです。もし最初にPET検査を行っていたら、もっと早くがんが見つかった可能性はあるのでしょうか?

下山 そこが難しいところなのですが、保険診療上、PET検査は「がんが疑われた場合や診断がついているもの」に対して、広がりを見るために行う検査なのです。健康診断のようにがんを見つけ出すためのスクリーニングとして使うことは、保険では認められていないんですね。また、入院で行うことは保険診療上難しいという制度上の問題もあります。

東さんのご主人の場合、腹膜の病変が強かったようなので、最初にPET検査で異常を発見できた可能性はゼロではありません。ただ、通常の消化器内科の診療手順として、生検や内視鏡などで病変が見つからなければ「がんではない」と判断せざるを得なかったのでしょう。

下山達氏(撮影/野﨑慧嗣)
下山達氏(撮影/野﨑慧嗣)

山田 僕は、画像ですぐがんだとわかったものの、そこから「原発(がんの発生元の部位)」がどこかを調べるのに1ヶ月かかりました。あの1ヶ月がメンタル的に一番きつかった。検査自体も苦痛でしたが、何よりつらかったのは結果が出ないことです。

検査してがんが見つからなかったら普通は喜ぶべきなんですが、この場合は「また原発が見つからなかった」と悲観しなければなりませんでしたしね。結局、「原発不明がん」と最終診断が下って治療が開始されたのは、8月も終わりになる頃でした。

下山 原発がわからない理由としては、主に2つの可能性があります。1つは、原発巣があったけれど、小さすぎて現代の画像診断能力(CTや内視鏡)では検出できない場合。もう1つは、免疫などの働きで原発巣自体が消えてしまった場合です。

ごく稀にですが、感染症などにかかった後で免疫が活性化して、がんが小さくなる現象があることが知られています。それと同じように、原発巣は何らかの理由で消えてしまったけれど、そこから既に飛び出した転移巣(原発巣から別の臓器にがん細胞が転移した病変)だけが残って増殖している、というケースが考えられます。

こうなると、転移先の細胞を採取して特徴を調べるしかありません。しかし、採取した細胞が原発臓器の特徴を失っていたり、そもそもがん細胞自体が未分化(成長途中のまま)すぎたりすると、結局「どこの臓器から発生したがんなのかわからない」となり、診断は困難を極めるのです。

山田 僕の場合もそうでした。生検で採った細胞は元の臓器の特徴を示していない「未分化がん」で、壊死している細胞も結構あったそうです。

下山 細胞が特徴を失うと、どの臓器から来たがんなのか区別がつかなくなります。そのため、治療方針の決定までに時間がかかってしまうのです。