韓国演劇界の熱気
──劇作家協会新人戯曲賞を受賞した「鎖骨に天使が眠っている」は韓国でも二〇二三年に上演され、大変な人気だったときいています。
そうなんです、僕もビックリしました。「イカゲーム シーズン1」の準主役だったパク・ヘスさんが出演していた国立劇場の演目の売り上げを抜いたとかで、さすがにあちらでも驚かれたそうです。韓国ではランキングが常時発表されるので、抜いた時はものすごく盛り上がりました。それにドラマや映画だけでなく、舞台演劇の人気もすごくて、アイドルとかじゃない、普通に演技派の俳優さんのファンもたくさんいるんですね。「鎖骨に天使が眠っている」の脚本も、あちらの大手出版社から刊行されることになって、刊行記念のトークイベントとサイン会のために、先日、渡韓しました。二時間ほど喋って、それから希望される方にサインをしたのですが、お客様の熱量がすごかったです。
──韓国では、脚本が普通に出版社から刊行されるんですね。
僕も戯曲を同人誌的に制作・販売してはいますが、日本では商業出版社から戯曲が書籍として刊行されることは、滅多にないです。
韓国版の演出家の方は、仕事がいっぱい増えたみたいで「3号先生、私はあなたのおかげで今、スターになりました」って(笑)。「鎖骨に〜」は既に二〇二四年に再演されていて、二六年には再再演されることも決まっています。
韓国では人気があると、一ヶ月二ヶ月とロングランになるのが羨ましいです。口コミでどんどんお客さんが増えるんですよ。日本だと劇場の予約がずーっと先まで埋まっていて、小劇場は一週間上演できたらいい方ですから。
韓国の景気自体は今、あまり良くないかもしれませんが、エンタテインメントや芸術を世界に売っていこうという熱量は確実に日本より高いです。
社会情勢は個人につながる
──ご自分で観客として必ず行く劇団はありますか? また、影響を受けたりしますか?
ないですね。そもそも演劇というフォーマットにはほとんど影響を受けないんです。それよりは音楽からの影響が大きいです。syrup16ɡ、ART-SCHOOL、エレファントカシマシ、どん底だった僕の二十代をずっと支えてくれた三大バンドです。海外であればThe Smiths。実は『カンザキさん』に一瞬、 The Smithsを意識した表現を忍ばせています。あとナンバーガールも。そんな感じで若い頃は、大好きなバンドの曲からインスピレーションを受けて、オリジナルの物語を作っていくということをしきりにやっていました。他ジャンルのものを僕の脳みそを挟んで別ジャンルに置き換えると、新しい発想や作品が生まれるんです。
──3号さんは、震災や移民といった、社会情勢や社会問題を扱う戯曲も多く書かれていますね。
社会情勢を描くのは、僕にとっては自然なことなんです。なぜなら社会は必ず個人とつながります。個人を書いたら、社会とつながらざるをえない。社会を構成しているのは、一人一人の個人ですから。
そして基本的には、演劇も小説も、世界を相対化することなので、世界を、社会を書かないと個人は書けないというのが僕の考えです。
ただ、戯曲やったら社会情勢を入れ込むさじ加減がわかるんですけど、小説だとそうはいかない。相当リサーチしないと、厳しいかなというのが何となく見えてきたところです。やったことがないから、まだそこは手探りですが、いつかは『カンザキさん』のような「狭い」小説ではなく、外に「拡がる」ような小説も書きたいですね。













