「美化されており一抹の不安を…」と手紙に
植松死刑囚は弁護士への手紙の中で「彼女の中で私はそうとう美化されており、一抹の不安を感じていますが…」とも書いているから、年上の彼の方が、多少は客観的に状況を見られているのかもしれない。
ただ同じ手紙の中で、彼女が頻繁に花などいろいろなものを差し入れしたりしていることへの感謝の気持ちを書いている。翼さんの献身には感謝しかないという気持ちなのだろう。
2人のやりとりは表面的にはよくある恋愛話に見えるが、そのすぐ背後に深い影が控えているのは、当事者たちも理解しているはずだ。
植松死刑囚が書いた最近の手紙の中で、恋愛や結婚に言及している部分を引用しておこう。
《私は「恋愛」に関してけっこう冷めた眼で見ていて、情熱的に愛し合っていても、いつの間にか必要以上に憎しみ、ののしり合うこともあるようです。
だから、「結婚」という誓約にも懐疑的でしたが、○○さん(原文実名)が現れてからは、家族として互いを尊重し、日々を育むことは素晴らしいことだと思うようになりました。天変地異の世の中ですが、何が云いたいかというと、私はいつでも○○さんの味方でありたいと思っています。》
翼さんの手記を読むと2人がラブラブな関係に見えるが、実際には喧嘩もしているようだ。最近喧嘩になった理由が興味深いので紹介しておこう。
5月頃に2人は互いの印象をイラストや絵で表現しようとなった。植松死刑囚が描いた妻のイラストは、とても色がきれいで、彼が獄中でスキルを上げていることがわかる。
そして翼さんが油彩画で描いた夫のイメージは、彼女の画力も一定の水準に達しているが、多くが抽象画で、何となく彼女の不安な気持ちが反映されているのが特徴だ。
そして喧嘩の原因になったのは、この2点とともに『創』25年7月号に掲載した翼さんの絵は抽象画で、後で聞いてみると彼女の自画像とのことだったが、植松氏はそれを見て、自分の死刑執行のイメージを描いたのではないかと思い、激怒。面会室で翼さんと激しい口論となったらしい。
この話でわかったのは、植松氏がやはり執行について不安を感じているということだ。死刑囚だから当然だし、日本における死刑執行は、当日の朝に突然告げられるから、死刑囚はその恐怖に怯えて毎日を過ごすことになる。
その恐怖は恐らく当事者でなければ理解できないものだろう。植松氏はどちらかといえば、そういう不安をストレートに表に出さないタイプに思えるが、その反応について聞いた時には、やはりそうなのかと思った。
2020年3月、控訴を取り下げる際に彼もいろいろ思い悩んだ様子が窺えたことを思い出した。
文/篠田博之 編集/月刊「創」編集部













