「ライブは楽しむものじゃないの?」
それでも反応はなく……。申し訳ないと思いつつも、肩を軽く 叩いたところでようやく気づいてくれた。
改めて「歌っても構いませんが、もう少し声のボリュームを抑えてもらえませんか?」と伝えたところ、「ライブは楽しむものじゃないの?」と笑いながら反論されてしまった。
「隣の人に『迷惑ですか?』と尋ねていましたが、そう聞かれて『迷惑ですよ』と言える人がどれだけいるのでしょうか……。私も怯まずに『後ろの声は前に直接届くんです!』と訴えたのですが、まったく聞く耳を持ってくれませんでした……。聞き取れませんでしたが、むしろ納得できなかったのか何か文句を言っているようでした。
隣にいた母が『大丈夫だから』と私をなだめてくれたのですが、それが申し訳なくて、今でもモヤモヤが残っています」
その後、男性は近くにいた同伴者と思われる観客と席を交換。ときおり声は聴こえたものの、気にならない程度になった。
「でも、私の代わりにほかの人があの声を聴かされていると考えると、なんだか申し訳なく感じてしまいました。私はB’zの演奏、稲葉さんの歌声を楽しみに東京ドームに来たのに、少なくとも6曲が男性の歌声にかき消されてしまい、とても残念で悔しかったです」
やり場のない思い……。しかし、このような経験をしたのは彼女だけではない。
「ある海外アーティストのライブでは、隣の女性客が最初から最後まで熱唱していました。うるさいなとは思っていたのですが、途中から歌詞ではなく、『ラララー』と、カラオケで歌えないときのようにメロディだけを大声でなぞり始めたときは、『もう黙って!』と言ってしまいました」
そう語るのは、長年ライブに通っている音楽ライターだ。一緒に歌うことについては、日本人アーティストと海外アーティストの間で大きな違いがある。海外アーティストの場合、客席にマイクを向けられなくても、有名な曲であれば観客が一緒に歌うことが“当たり前”とされている。
「でも、せっかく1万5000円という、決して安くないチケット代を払っているのに、アーティストではなく知らない観客の大熱唱を聴かされるのは、やっぱりつらいですよね。仲間と一緒に歌いたいなら、カラオケに行ってほしいです」













