「どうにも調子が掴めなかったんだ」
ところで、当のポール・シムノンはベースを壊してしまったことをすぐに後悔したという。
そのベースは、フェンダー社のプレシジョンというモデルで、「プレッシャー」という文字が書かれ、ドクロのステッカーが貼られている。『ロンドン・コーリング』のレコーディングの時にも使ったもので、音が良くてとても気に入っていたというのだ。
では、なぜそんな大切な楽器を、ステージの上で衝動的に叩き壊してしまったのだろうか。
「ショーはとても順調だったよ。俺を除いてね、どうにも調子が掴めなかったんだ。それでベースに八つ当たりしたんだと思う。もし俺が賢ければ、スペアのほうに持ち替えて弾いてたんだろうな。俺が壊した方より音が良くなかったし」
また、このジャケットのインパクトを物語るこんなエピソードもある。
2003年の『ロックの殿堂』授賞式で、ザ・クラッシュのプレゼンターを務めたレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのギタリストであるトム・モレロは、「スピーチ原稿を俺以上に書き直した奴はいない」というほど、ザ・クラッシュは人生を変えたヒーローだった。
そんなトムも高校生の頃は、レッド・ツェッペリンをはじめとするハード・ロックやヘヴィメタルに夢中な少年だった。
ある日、クラスメイトが教室に一枚のレコードを持参する。そのジャケットを見たトムは、とんでもないヘヴィメタルのレコードに見えて強い興味を抱いた。荒々しく楽器を叩きつけて破壊するその姿は、トムの目には最高にクールなヘヴィメタルに映ったのだ。
クラスメイトは「ヘヴィメタルじゃないけど、最高だよ」と、笑いながら言った。
メタルじゃないレコードが良いはずがない、とトムは疑ったが、どんな内容なのか気になり、頼み込んでそのレコードを貸してもらった。家に帰ってザ・クラッシュの『ロンドン・コーリング』を聴いた時の心境をこう語っている。
「ああ、確かにメタルじゃなかった。そう、これまで聴いてきたどんなメタルよりも最高だった。その一枚のレコードで俺の世界は変わったんだ」
文/佐藤輝 編集/TAP the POP













