素人たちに鋭角的な言葉を浴びせる

そして結果は大成功。土曜23時からの深夜枠にもかかわらず、全盛期は毎週のように15%超の高視聴率を記録。20%を超えることもあった。楽屋で展開されるさんまの「素人いじり」が、お茶の間でも評価されたのである。

当時、「恋から」で展開されたトークは、コンプライアンスにがんじがらめの現在では厳しく批判されるものも少なくないかもしれない。スタジオでは大物芸人に物怖じしない素人女性と対峙するさんまから、鋭角的な言葉が放たれた。

・茶髪に染めた女性に対しては、「なんや飯島愛のバッタモンみたいやな」。

・黒髪ロングヘアで黒いロングドレスで登場した女性には「アダムス・ファミリーのオバハンかと思ったわ!」。

・クシャクシャの無造作ヘアの女性には「大相撲の琴富士のぶつかり稽古の後か!」。

・ある初登場の女性には、「君の横顔、新幹線の『のぞみ』みたいな見事な流線型やね」。

・黒髪ショートにバッサリ切ったら「そやね、骸骨に海苔を貼った感じやね……」。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
写真はイメージです(写真/Shutterstock)

容姿についての言及が厳しくなったいまでは、なかなか電波に乗せにくい表現の数々かもしれない。しかし、当時の出演素人女性たちは、これにタメ口でバンバン言い返し、「さんちゃんそれ違うよ」などと反論した。

その丁々発止の対空砲火の撃ち合いの様な言葉のぶつかり合いが、録画番組でありながら生放送以上の抜群のライブ感を生んでいたのだった。

インターネットなどで「番組を観てもいない第三者」が批判する現代とは違い、時代が大らかだったこともあるが、それでもさんまの発言が当時炎上するということはまずなかった。

それは「時代」というより、出演女性への「愛」と「気遣い」と「言葉を発する絶妙なタイミング」によるところが大きかったと思う。

女性たちに対する、さんまの観察眼は非常に鋭かった。

番組スタート直前の3月末、第1期の最終オーディションでさんまは小声で私にこう呟いた。

「吉川くん、さっきの組の左から3番目のあの女の子の手見とった? あの娘、震えとったやろ。あの子はええで。あれは緊張感とやる気のある証拠やわ」

それは、JALの元CAとして登場した島田律子さん(現・日本酒スタイリスト)だった。

島田律子さん(本人Xより)
島田律子さん(本人Xより)
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その島田さんは第1回放送の「私が男に惚れた瞬間」という質問で、

「ある男性といい雰囲気になって見つめ合っていた時、彼が私に『君、長くて太いのが1本出てる』と言って、私の鼻毛をズボッと抜いてくれたんです。私、その場でその方に惚れてしまいました」

スタジオは大爆笑に包まれた。さんまの慧眼はすぐに証明されたのである。

文/吉川圭三

『人間・明石家さんま』 (新潮新書)
吉川 圭三
『人間・明石家さんま』 (新潮新書)
2025/10/17
946円(税込)
192ページ
ISBN: 978-4106111037
怪獣ではない。でも、常人でもない。
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