命を奪うということ

――よじょうさんが初めて獲物を仕留めたときのことを覚えていますか?

よじょう 覚えています。一頭目のときは、何かわからないけど「やってもうた」っていう興奮状態になって、その夜、吐きました。二頭目からはもう慣れてきましたけど、師匠には「かわいそうと思うより、ありがとうという気持ちでいかんとあかん」と言われました。
矢野 その感覚の違いを、作品の中でも描きたかったんです。猟師と、猟を知らない人との間にある温度差。例えば、優太というキャラクターが「なぜ殺さないのか」と問いかける場面などは、実際に猟師さんから聞いた話をもとにしています。
よじょう 猟師目線で読むと、優太にはちょっとイラッとしましたね。いや、ちょっとどころではないかも(笑)。でも、都会の人や、身近に獣害のない人たちから見たら、そういう感覚になるのもわかるんですよ。
矢野 狩猟免許を取られてから感覚が変わったところはありますか。
よじょう そうですね、現実的な問題として、獣害が出ている地域の人たちは本当に困ってるんですよ。現場の声を聴いたら、駆除してくれんとマジあかんようになってしまう、と強く感じる。もちろん獲りすぎはだめですけど、必要最低限の狩猟行為がなければ、人間の生活が立ち行かなくなってしまうんですよね。
矢野 そういった現実を目の当たりにすると、優太のような態度はちょっと受け付けられなくなりますよね。実際僕は今、田舎に住んでいて、しょっちゅう家の庭に鹿がいるんです。まだ目立った被害は出ていないけれど、人里も関係なく動物があふれてきている状態になっていることは感じます。
よじょう 作品の中にもありましたが、緩衝地がなくなってきてるんですよね。僕の先輩も言っていました。猟師の高齢化だけでなく、田畑の担い手の高齢化で、それらが放置されてしまって動物たちの住処(すみか)になっていってしまっているなど、人と動物の()み分けがどんどん曖昧になっているんです。

よじょう ◉ 81年兵庫県生まれ。吉本興業所属のお笑いコンビ・ガクテンソクのボケ担当。THE MANZAI2011・2013・2014ファイナリスト、THE SECOND2024王者など。21年に狩猟免許を取得。
よじょう ◉ 81年兵庫県生まれ。吉本興業所属のお笑いコンビ・ガクテンソクのボケ担当。THE MANZAI2011・2013・2014ファイナリスト、THE SECOND2024王者など。21年に狩猟免許を取得。

猟友会の実情とキャラクターたち

――『猪之噛』には、マリアや剛太郎、蓮司、金時といった個性豊かな猟師たちが登場しますが、よじょうさんの実際の猟友会の雰囲気はいかがですか?

よじょう 僕のところは、そこまで個性豊かではないですね(笑)。でも、仕切っている人は剛太郎さんみたいな長老タイプで、犬を飼っていて、勢子(せこ)として指示を出す感じはまさにそのままです。小説の猟友会は魅力的すぎて、入りたくなるくらいでした。
矢野 剛太郎のモデルになった方は、実際はもっとヘラヘラしたおじちゃんで、軽トラで焼酎のパックを買って帰るような人でした(笑)。でも、そういう人たちが命と向き合っているというギャップが面白いんですよね。
よじょう 登場人物たちはやっぱりエンターテインメントだな、と思う部分があって面白かったですよ。でも本当に豪快な人は多いかも。猟師あるあるなんですが、年配の猟師の方って、ほんまに熊と闘った、みたいな武勇伝いっぱいあるんですよ(笑)。
矢野 あるんですか、本当に。
よじょう 真実かどうかはわかりません(笑)。熊と対峙したあのとき、弾が一発しか入っていなくて、撃ったが外してしまったから最後は銃床でどついた、みたいな……。ほんまか、それ、とは思ってますけど(笑)。
矢野 武勇伝は多少誇張されたりもするでしょうけれど、獣と渡り合ってきてはいますよね。作品の蓮司が猪にやられるシーンも、実際に動画で見させていただいた出来事をもとにしたんです。
よじょう 恐ろしいですね。猪は牙だけじゃなく噛む力もすごいので気をつけろとは言われます。猟友会の人も噛まれて指が飛んでる人がいましたし。罠にかかった足をちぎって逃げたりもします。
矢野 お互いに命がけなんですよね。