――野生に転がっている「野良句」を巡る、俳句連作ミステリ。誰かが書き残した言葉を、自由律俳句として捉えるという試みが新鮮な一作です。宮田さんはいかがでしたか?
宮田 自由律俳句には馴染みがなかったので、最初は不安でした。でも、物語の中で一緒に読み解いていく時間があるからこそ、「こんなに面白いんだ」と気づけて。私は長く短歌をやっているので、解釈のプロセスが似ていて、とても馴染みやすかったです。
森 ありがとうございます。僕も自由律俳句に詳しいわけではなくて、書くにあたって歴史を掘り起こしました。以前から、せきしろさんの句集などは読んでいたんですが、がっつりはまっていたわけではなかった。むしろ執筆を進める中で自由律俳句と親しんでいった感じです。
宮田 作中の自由律俳句も全部作られているんですよね。
森 そうです。プロットは通ったものの、むちゃなことしちゃったなと、執筆しながら思いました。でも楽しかったですね。
宮田 定型の俳句というものがありますが、今回自由律俳句をテーマにしたというのが、この作品をより面白くしているように思います。
森 野良言葉でいきたかったんです。要はその辺に落ちている野生の言葉というのを書いてみたくて。野生の言葉が五・七・五で落ちているというのはまずめったにないので、そう考えると自由律のほうがいいなということで、自由律俳句をテーマにしました。じゃあ自由律俳句とは何ぞやというところから掘り下げ、わざわざ五・七・五という定型があるのに自由律にする意味って何? みたいなところとか、そもそも自由って何ですか? みたいな、少しずつテーマをずらしていくようなところで作品に広がりを出していけたらいいなというのが当初の考えで、大体そのとおりの作品になったかなと。
宮田 実際に野良句を探したくなりました。日常の道中で、これは違うかなとか思ったりして。例えば、「柱に当たって月消し帰る」という野良句ですが、この言葉を虚池さんが見つけたから、自由律俳句として捉えられる言葉みたいなところもありますよね。日常に落ちているだけだったら、見る人によってはただの言葉だけれども、それが俳句に変わる瞬間が、一話一話に描かれているなと。それがとても面白かったです。それから、シンプルに私、野良句たちの漢字と平仮名の配分が好きでした!
森 宮田さんは、『春、出逢い』でも、その辺とても認識していらっしゃいますよね。
宮田 そうですね。短歌は短い一行でさらさらって書ける文だからこそ、漢字と平仮名の割合によって与える印象って全然違うんだろうなと思っていて。なので今回、句を見て、ああ、ここ開くんだとか、ここ漢字なんだとか、じっくり観察していました(笑)。意味のある開きもそうですが、視覚的なわかりやすさや効果を狙っての開きとかに、感覚が出ると思っていて。短歌とか俳句とかだと、私はそういうところを気にしちゃいますね。
森 それでいうと、僕は結構小説を書くときと地続きの感覚でやっているんですよね。小説でもそういうところがあって。よくゲラのチェックで困るときありませんか。例えば、「そのとき」というときの「とき」を漢字にここはしようと思った。ところが、次のときの「とき」は、漢字だとうまく合わないみたいな。
宮田 めっちゃ分かります。
森 あれ、さっきはこれでよかったのに、どっちかに統一したいなと思ったのに、統一できない。
宮田 めっっっっっちゃ分かります。
森 だから、僕はもう統一しないと決めているんですけど。
宮田 一応私の中では地の文は統一して、せりふだけは自由に何してもいいって決めていて。そこだけ、少しルールにして守ろうみたいな気持ちで。
森 そうですね、会話文のときはできるだけ開きたくなるなというのはありますし。
宮田 音とか声の大きさとかでも変わってくるから、気にしますね。
――表記されたときのイメージにとても気を遣っているようですね。
森 今回、俳句をテーマにしようと思った理由の一つが、小説も、一文一文をできるだけ詩や俳句と近いような感覚で書きたいなというのがあったんですね。じゃあ俳句をテーマにした話にすれば、小説という散文の精度というか、そういうものを高められるのかもしれないなというのが狙いとしてありました。
宮田 なるほど。
森 宮田さんの『春、出逢い』は、なぜ短歌を題材にしたんですか?
宮田 この一作前に恋愛小説を書いたので、次は別の題材を考えていたんですね。私がもともと短歌を好きでやっていたので、短歌を絡めた部活ものを書こうと思い、その中で短歌甲子園というものがあるのを知って……といった経緯です。突き進んだはいいものの、後から、これ自分で短歌書くんだって気づいて。
森 キャラクターごとに歌を先につくったんですよね。
宮田 そうなんです。実は主要登場人物は名前だけは先に決めたんですけど、最初の歌のイメージを固めてからキャラクターをもう少し掘り下げていき、好きな歌人や詠む歌集のタイトルを決めました。それらを改めて私自身が読んでから、そのキャラクターを出力していきましたね。
森 すごい。『春、出逢い』は言葉がキャラクター一人一人の個性を集約することによって、小説に不思議な強度が生まれているなと思って。言葉から何かが生まれてくる感じというか、短い言葉をそれぞれの人につくることによって、そのキャラクターに血が通って、それがやがて物語になっていくという、面白い書き方だなと思いました。
「言葉が紡ぐ謎と青春」森晶麿×宮田愛萌(作家・タレント)『虚池空白の自由律な事件簿』刊行記念対談
森晶麿さんの新刊『虚池空白の自由律な事件簿』の刊行を記念し、作家・タレントとして活躍する宮田愛萌さんとの対談が実現。
自由律俳句と短歌という異なる詩型を軸に、創作の背景、言葉へのこだわり、そして物語の構築方法まで、深く語り合っていただきました。
構成/集英社文芸編集部 撮影/隼田大輔 ヘアメイク/yùlaly
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