「人生で一番不幸な年齢」は47.2歳

米ダートマス大学のデービッド・ブランチフラワー教授らが132カ国からデータを集め、年齢と幸福度について調べたところ、幸福度は中年期にかけて緩やかに下降し、最も落ち込むのが47.2歳であるとわかった。しかし、47.2歳を底にその後幸福度は上がり、人生が好転する人が増えたという。この現象は「ハピネス・カーブ」と呼ばれている。

「まだ終わりたくない」と一念発起し転職を試みたものの、直後にリーマンショックが発生。職安通いを強いられた元一流企業の部長・岩田さん(仮名)。

「(会社では「古い」と言われた)自分の技術を発展途上国で活かしたい」と、中国で起業した知人の会社に転職。だが、わずか2年で廃業を余儀なくされた元メーカー勤務の下園さん(仮名)。

「もっと会社の役に立ちたい」と、50歳のときに誰も行きたがらない離島勤務を志願したものの、妻に猛烈に反対され別居した遠藤さん(仮名)。

これらは私がインタビューした方のうち、ちょうど47歳前後で落ち込みを経験した方のエピソードだ。

その後、岩田さん(仮名)は8カ月間の職安通いを経て、寝具メーカーに転職。現在は総括部長として、全国を飛び回っている。下園さん(仮名)は帰国後、青年海外協力隊に応募し、シニアメンバーとして3年間ほど勤務。現在は日本に住む外国人に日本語を教えている。離島勤務の遠藤さん(仮名)は来年定年になるので、妻も呼び寄せ雇用延長をする予定だ。

彼らはみな「今が楽しい」と笑い、「今度は〇〇にチャレンジするつもり」と今後の予定を話し、「それで? それで?」と私が興味を示すと目をキラキラさせ、湧き出る泉のように喋りまくった。私に相談に来たときの不安げな表情が嘘のようだった。

これぞハピネス・カーブ。具体的に動けば、新しい自分に巡り会える。ミッドライフクライシスの先にあるのは「可能性」だ。

そして、そんな彼らが共通して口にしたのも「人間関係の大切さ」だった。

不安の反対は安心ではない。前に踏み出すことだ。ジタバタしながらも具体的に動き、自分を取り巻く半径3メートル世界の人たちといい関係を築く。そうやって一歩一歩前に進むうちに玉ねぎの皮が次々と剥がされ、「本来的な自己」に近づいていく。

愛をケチらない半径3メートルが出来上がれば、守られているという感覚が芽生え、自然と余計なリミットは外れていく。

「前に踏み出すこと」は、必ずしも転職のような大きな決断だけを意味するわけではない。興味がある分野のセミナーに参加したり、関連する書籍を読んでみたり、副業として小さく始めてみたりするのもいい。小さな一歩でも、それが新しい道を開くきっかけになる。

誰かの傘を借りながらでも、とにかく踏み出してほしい。自立と依存はコインの表と裏ではない。むしろ依存の先にこそ、真の自立が存在する。

そして、そのあなたの一歩が、次の誰かの勇気になるかもしれないのだ。

人生で最も不幸な年齢は47.2歳? 50代に「いい人間関係」を持っていた人は80歳でも健康な傾向に…中年の危機を乗り越えた人たちが教えてくれる幸福を取り戻す力とは_2
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文/河合薫 写真/shutterstock

『「老害」と呼ばれたくない私たち 大人が尊重されない時代のミドル社員の新しい働き方』(日経BP 日本経済新聞出版)
河合薫
『「老害」と呼ばれたくない私たち 大人が尊重されない時代のミドル社員の新しい働き方』(日経BP 日本経済新聞出版)
2025年11月14日
1,760円(税込)
192ページ
ISBN: 978-4296124930

【内容紹介】
何者にもなれない40代、〝ただのおじさん・おばさん〟扱いされる50代、いるだけで老害扱いの60代——
令和を生きる「新世代型中高年」はなぜこんなにしんどいのか?

現代は40歳以上の大人が人口の過半数を占める「超中年社会」。にもかかわらず、決して職場で肩身が広いわけではない令和の中高年。
無意識に私たちを縛る「いい大人」の呪縛から離れ、自分自身の心の土台を再構築することで、人生後半を前向きに働くためのヒントを紹介します。 

【目次】
プロローグ
第1章 「老害」と呼ばれたくない私たち
第2章 新世代型中高年 私たちの憂鬱
第3章 自分を縛るしがらみの存在
第4章 自分の「心の土台」を再構築する
第5章 「いい大人」の呪縛から離れる

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