“熊食”はクマ被害の対策になるか? 

気になる熊肉の仕入れルートは、村の産業課所属の「NAP(西目屋アニマルパトロール隊)」職員が、村民の依頼で仕掛けた箱罠にかかったツキノワグマとのこと。食肉が獲れるのは熊の体重の約50~60%程度で、内臓は廃棄、皮は熊革製品に使用しているそうだ。

調理前の熊串焼(写真/一般財団法人ブナの里白神公社提供)
調理前の熊串焼(写真/一般財団法人ブナの里白神公社提供)

食肉処理するようになったのは、村の文化や歴史が影響している。

「『ジビエ工房白神』が開設する前、罠にかかったツキノワグマは廃棄処分されていましたが、マタギ文化でツキノワグマは“山からの授かりもの”として大切に扱われており、『もったいない』という思いがありました。

村には鳥・豚・牛などの畜産業が無く、唯一あったイワナの養殖を営む業者さんも津軽ダム建造にあたり廃業しました。食の観光資源が乏しく、観光業を運営する当社としても非常に厳しい状況で、“ツキノワグマをジビエで提供できる環境が整えば、村と公社が抱える問題を解決することができる”と考えスタートしました」

気になる利益は「白神公社としては充分な利益が確保できております」とのことで、道の駅で出した熊串焼も、普段の出店の3倍を準備したが、イベント2日目の午前には売り切れたという。

左上から時計回りに「くまソーセージ」「くま鍋」「くま御膳」「くま焼肉」。ブナの里白神館で提供されている(写真/一般財団法人ブナの里白神公社提供)
左上から時計回りに「くまソーセージ」「くま鍋」「くま御膳」「くま焼肉」。ブナの里白神館で提供されている(写真/一般財団法人ブナの里白神公社提供)

好評な上に稼ぎが期待できるのなら、全国にも熊食が広がりそうだが、この点については「ジビエの食肉処理施設として営業許可が必要となり、自治体や民間事業所でも経費がかかるため、運営は大変かもしれません」と、そう簡単にいかないことを明かしてくれた。

最後に、熊食がクマ被害の対策として有効かを聞いてみたが、これにはマタギ文化が残る村ならではの複雑な思いが……。

「クマ被害は全国各地で連日報道され、亡くなる方もいて心が痛みます。当村も先日、役場内に子グマが侵入した映像が全国に流れました……。人間とクマ(が暮らす地域)の境界線が非常にあいまいになっており、今後の被害拡大も予想されます。

ただ、駆除や食肉での乱獲は生態系を崩すことにも繋がり、山と共存するマタギの文化に反するようにも思いまして……。今まで通り、自然に任せた方向でいければ1番良いのですが……。

『白神ジビエ』も、進んでツキノワグマを狩るのではなく、あくまでも村民を守るための箱罠にかかったクマのみ使用しています。『白神ジビエ』による観光の活性化を望んでいますが、出発点は廃棄していたツキノワグマの活用によるマタギ文化の継承なので」