54年間の一人暮らしは「寂しくも辛くもなかった」
激動の戦前戦中戦後を経て、昭和から平成、そして令和と約90年間、ハサミを握り続けてきた箱石さん。英政さんが大学進学で上京して以降、102歳になるまでの54年間、一人暮らしで理容師の仕事を続けてきたという。
「『生活とは、そういうものだ』と思ってきましたので、寂しくも辛くもなかったです。日々を生きるのに精一杯だったので、先々のことまで考える余裕もありませんでした。だからこそ、この年齢まで生きられたのかもしれませんね」
そんな箱石さんが生活するうえで大切にしてきたことは、「考えすぎない」「余計なことで悩まない」「いつも機嫌よくしている」「自分のことは自分でやる」こと。
そうして日々を生きる中で、2021年の東京五輪では「最高齢・104歳の聖火ランナー」を務め、今年春には「世界最高齢の現役理容師」としてギネス世界記録にも認定され、ついに今年11月に109歳の誕生日を迎えた。
そんな箱石さんに今後の目標を聞いてみると、
「邪推を回さず、皮肉にとったりしないで、素直に人とお付き合いしていきたいですね」
とにこやかに語った。人生を刻むハサミの音は、これからも静かに、そして確かに響いていくことだろう―。
取材・文/木下未希 集英社オンライン編集部特集班















