「かわいそう」という感情が、次の犠牲者を生む
その一言が、行政の迅速な判断を鈍らせ、現場の猟友会の活動を萎縮させ、地域住民を危険に晒す。あなたの「かわいそう」という感情が、次の犠牲者を生む引き金になりかねないという冷徹な事実を認識すべきだ。
サハリンで行政の対応が遅れた背景にも、おそらくはこうした安易な動物愛護の風潮が影響していたであろうことは、想像に難くない。
人の命を危険に晒すことを容認するような感情論は、社会から断固として排除されなければならない。もはや、そのような甘えが許される段階はとうに過ぎ去ったのだ。
我々に必要なのは、感傷的な同情ではない。ヒグマは、動物園で愛嬌を振りまくキャラクターではない。鋭い爪と牙で、いとも簡単に人間を殺害できる野生の捕食者である。
ペットの犬と野生のオオカミを混同してはならないように、この峻別ができない限り、有効な対策は永遠に生まれない。
北海道が自衛隊まで巻き込んで対策会議を設置したことは、重要な一歩だ。しかし、それは始まりに過ぎない。個体数の科学的な管理、危険個体の迅速な駆除を可能にする法整備、そして何よりも、国民一人ひとりがヒグマの本当の恐ろしさを正しく理解し、意識を改革すること。
サハリンで失われた命を無駄にしないために、日本は今こそ、厳しい現実に基づいたヒグマ対策へと、大きく舵を切らねばならない。残された時間は、決して多くはない。
文/小倉健一 写真/shutterstock
参考資料:凶暴な獣の襲撃。サハリンで熊が2人の男性を引き裂く
https://sakhalin.aif.ru/incidents/zhestokaya-ataka-zverya-medved-razorval-dvoih-muzhchin-na-sahaline













