「デビュー!の巻」(ジャンプ・コミックス第30巻収録)

今回は、派出所を訪ねてきた若き漫画家志望の青年に、両さんがさまざまな(メチャクチャな)アドバイスを授けるお話をお届けする。

この漫画家をめざす若者は、その嗜好性や持参した原稿からして、明らかに『こち亀』作者・秋本治先生自身を投影したキャラクターだ。

なにしろ両さんに酷評され破り捨てられた原稿は、秋本先生が漫画家デビュー以前に描いた読み切り作品『ベトナム戦記 平和への弾痕』なのだ(秋本先生が『こち亀』でデビューした翌年の1977年、「少年ジャンプ4月15日増刊」に掲載された)。

つまり本作は、秋本先生自身のデビューまでのいきさつを、両さんを絡めて描いたメタフィクションエピソードなのだ。

「平和への弾痕」より。同作は、のちにコミックスにも収録された
「平和への弾痕」より。同作は、のちにコミックスにも収録された

なお青年は劇画志向なのだが、紆余曲折があって「週刊少年ジャンプ」に投稿したのは……。これは読んでのお楽しみとしたい。

この「劇画」というジャンルは、暴力やシリアスさを押し出した青年・成人向けの漫画として1950年代末から1970年代前半にかけて一世を風靡した。これは、社会での学生運動・労働運動の高まりと時期を同じくしていた。だが1970年代半ばからは、世の中の潮流の変化もあって、劇画は急速に失速していった。

1960年代から1970年代にかけて少年期をすごした秋本治先生は、劇画に大きな影響を受けていたのだが、「週刊少年ジャンプ」での連載は、賞の入選作であるギャグ漫画『こち亀』に決まった。

両さんという劇画チックな強面のキャラクターがギャグをやるというギャップもあって、『こち亀』は人気を博すのだが、もし秋本先生のデビューがあと5年早かったら『こち亀』は誕生していなかったかもしれない。

それでは次のページから、秋本先生が自身をモデルにして描いた変わり種の一作をお楽しみください!!