平均年収50万円…アルメニアのIT教育 

すっかり「TUMO」に魅せられた清水はすぐさま東大に辞意を伝え、センターマネジャー職の公募に応じることになった。

「TUMO」の学びの場を現場で切り盛りするのが清水なら、プロジェクトを現場で担当しているのが県産業経済部eスポーツクリエィティブ推進課の鈴木憲貴TUMO係課長補佐(48)だ。

鈴木が当時の副知事から突然、「TUMO」本部のあるアルメニアへ出張を命じられたのは23年4月のことだった。翌5月に羽田からパリ経由で「TUMO」本部のあるアルメニアの首都エレバンへ。現地滞在わずか3泊という弾丸視察ツァーだった。

すでに山本一太知事が「TUMO」誘致の検討をしていることは知っていた。鈴木は2020年3月に前橋市にオープンした小中高生対象のデジタルクリエィティブ人材育成拠点「tsukurun」の担当係長も務めていただけに、突然の海外出張命令にも違和感はなかった。

「『tsukurun』の成果は上々で、受講者から小学生プログラミング全国大会で優勝するようなこどもも出ています。その『tsukurun』に加えて、県のIT人材育成プロジェクトをさらに加速させるために『TUMO』の追加導入が必要かどうか、その判断材料を得るためのアルメニア出張なのだなと受けとめていました」

左から2人目がTUMO係課長補佐の鈴木憲貴さん、一番右がセンターマネージャーの清水義教さん
左から2人目がTUMO係課長補佐の鈴木憲貴さん、一番右がセンターマネージャーの清水義教さん

「TUMO」の初見の印象を鈴木はこう語る。

「確たる理念と目的があってIT教育をしている。アルメニアの平均年収は50万円ほどで、けっして裕福な国とは言えない。こどもたちがITスキルを身につければ将来、高収入を得られるし、結果として国も発展するとの期待があるのでしょう。

とはいっても厳しく教え込んでいるわけでもない。カリキュラムのレベルはベーシックから中級程度まで体系的に学ぶことができる。

しかも、学びの自由度が高く、こどもたちはのびのびと課題に取り組んでいた。情熱的かつ余裕のある考え方を持った大人が、本当にこどもたちのことだけを考えて作り上げたような安心の空間で、これなら県にも導入を真剣に検討すべきだと感じました」

鈴木の報告から1か月後には宇留賀敬一副知事(当時)がアルメニア訪問、翌7月には山本知事が「TUMOを群馬県に誘致したい」と県議会やメディアに正式表明することとなった。

「TUMO」導入のプロセスを知って驚くことがある。世界が導入を競う優れたIT教育プログラムをアジアでいち早く取りこもうと動いた先見の明もさることながら、その導入スピードが迅速なのだ。

とかく時間のかかる「お役所仕事」が常態化する地方自治体としては異例のスピードと言ってもよい。