家族手当や子ども手当のようなもの

さらに、ネット上では《奨学金を肩代わりしてもらっている間は、我慢してこの会社に座っていれば払ってもらえるのでラッキーでしかないですね》という皮肉めいた声も目立つ。そのような声に対して、前出の大野氏は、次のように解説する。

「近年、福利厚生のあり方が大きく見直されてきています。これは節税面の観点もありますが、それ以上に、『お金に意味を持たせる』『企業の価値観を具体的な制度に落とし込む』という意味での意義が注目されています。

例えば、『家族手当』や『子ども手当』のような制度も、結婚していない人や子どもがいない人には恩恵がありません。それでも社会的には広く受け入れられています。奨学金代理返還制度も、同じように“選択的な支援”として自然に受け入れられていくべきでしょう」(大野氏)

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あくまでも、奨学金返還支援(代理返還)制度は福利厚生。企業が在籍している社員のリテンション(定着支援)を重視して、同制度は導入されている。

それでも、こと奨学金に関しては誹謗中傷めいた意見が殺到するのはなぜなのか?

「奨学金という“名前”がついているだけで、『自分はもらってないのに不公平』『自分は自分で返したのに』という感情的で狭い視点から批判が出てくることが非常に多いと感じています。こうした声は、言ってしまえば、『自分の財布』レベルの視点でしか物事を見ていないのだと思います。

本来は、『このお金の発生源はどこか』『誰が責任を持つべきなのか』『社会的な意味は何なのか』といった観点から、より広い視野で考えていく必要があると強く感じます」(大野氏)

そもそも、奨学金を借りなければ大学進学、そして「メシが喰える」仕事に就けない現状の社会のあり方を問題視しなければならない。奨学金返還支援(代理返還)制度は、若者の教育や就職、地方の格差を是正するための存在なのだ。

取材・文/千駄木雄大