ゴキブリ嫌いの世界観を変えた出会い
柳澤静磨副館長は「磐田市竜洋昆虫自然観察公園」で約100種類のゴキブリを飼育していて、その数は数万匹に上るという。
ゴキブリというと、台所やお手洗いに現れる体長4センチ程度のクロゴキブリを想像する人がほとんどだろう。自らを「ゴキブリスト」と名乗り、ゴキブリの魅力を伝える啓発・研究活動を行っている柳澤氏も、昔はクロゴキブリが大嫌いだったと話す。
「昆虫が好きで、昆虫館の職員になったほど虫が好きでした。ただ、ゴキブリはとても苦手でしたね。見たくもないし、もちろん触りたくもなかった。
昆虫館の職員になり、2017年に沖縄県の西表島(いりおもてじま)へ出張に行くことがありました。そこで今回新種として発表したヒメマルゴキブリと出会い、僕の世界観を変えてくれました。
彼らはダンゴムシのように丸くなるんですよね。ゴキブリって意外にも多様性があって、僕が知っているゴキブリだけではないんだと気づきました。そこから、調べていったら面白くなってですね。気づいたらハマっていました」
柳澤氏の心をつかんだヒメマルゴキブリはダンゴムシのように丸くはなるものの、脚は6本で、ダンゴムシの14本と比べて少ない。体長は1センチ程度で、木の上に生息するという。鹿児島県から台湾にかけて生息している。
ヒメマルゴキブリはこれまで1種と思われていたものの、柳澤氏らの研究チームによって形態の比較とDNA解析を進めたところ、2種が混在していることが判明。
新たに見つかった種を「ペリスファエルス・ホライアヌス(学名)」と新種記載し、7月30日に発表した。和名はこれまで使用されていた「ヒメマルゴキブリ」を対応させている。
「まさかゴキブリを好きになったきっかけの種が実は未記載種で、新種として発表することになるとは思ってもみませんでした。
丸くなるのは主に防衛のためと考えられます。触角など噛みつかれやすい部分を全部隠すことができますから。襲われる相手として、例えば、アリ。実は、ゴキブリにとって恐ろしい相手なんですね。アリはゴキブリの脚や触角を噛んで攻撃します」