「イカ天」の功績と罪

イカ天については、純粋なアマチュアバンドコンテスト然としていた番組初期と、メジャーレコード会社がプロモーションのため、デビュー予定のバンドを顔見せとして送り込んでいた中期以降では、番組の性質が違うと見る向きもあるが、1990年12月の番組終了までに約850組ものアマチュアバンドの演奏を放送に乗せ、数多くの実力派を世に送り出した功績は大きかった。

『平成名物TV 三宅裕司のいかすバンド天国』(通称・イカ天)は1989~1990年にわたりTBS系で放送された深夜番組だ。写真は、「イカ天」特集のコンピレーション『30-35 VOL.7』(2005年12月28日発売、Sony Music)のジャケット
『平成名物TV 三宅裕司のいかすバンド天国』(通称・イカ天)は1989~1990年にわたりTBS系で放送された深夜番組だ。写真は、「イカ天」特集のコンピレーション『30-35 VOL.7』(2005年12月28日発売、Sony Music)のジャケット

その一方で、下積みの実績なく、実力のほども定かではないポッと出のバンドを、瞬間風速のみで人気バンド風に仕立てて見せた罪もまた大きい。

イカ天に出演し1989~1991年にメジャーデビューを果たしたバンドとしてはフライングキッズ、ジッタリン・ジン、ビギン、たま、マルコシアス・バンプ、人間椅子、ブランキー・ジェット・シティ、カブキロックス、ピンクサファイア、AURA、宮尾すすむと日本の社長、クスクス、ノーマ・ジーン、スイマーズ、リモート、ザ・5.6.7.8'S、有機生命体などがある。

現在も活動を続けているバンドもあれば、早々に華々しく散ったバンドもいる。そしてレジェンドとしていまだに語り継がれるバンドも。

だが、こうした一部のトップバンドは、たとえイカ天がなくても遅かれ早かれ世に出てきたはずだ。むしろイカ天によりテレビサイズに矮小化されてしまったことがデメリットとなったバンドもいた。

しかしそれ以外の多くの無名バンドは、イカ天に出て一発で顔を売ることを目指し、番組サイドや視聴者もそれを待ち望んでいた気配があった。インパクト重視の色物バンドによるお祭り騒ぎが、バンドブームに水を差したことは否定できない。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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イカ天によってロックバンドはより身近な存在になり、“バンドやろうぜ”ムードも盛り上がった。

町田町蔵は僕が編集に携わったムック『宝島AGES』のインタビューで、1970年代末から1980年代初めごろのバンドと観客の関係について、「そのころのバンドのライブは、観客の顔つきも今とはまったく違い、楽しんでいるというよりも切実に何かを求め、ミュージシャンは神か教祖あるいはシャーマンであるかのように思いこみ、その人を通じて“何か”をつかみ取ろうという期待のようなものを感じた」と語ったが、それから10年が経過したバンドブームのころ、何かをつかみ取りたいと思ったキッズは、すぐにギターショップへ走るようになったのだ。

テクニックも何もなくても、伝えたいことがあればバンドをやるというのはパンクやインディーズカルチャーの本質と同じではあるが、この時点においては逆に作用し、バンドという存在のカリスマ性を削ぐ結果となった。

文/佐藤誠二朗

いつも心にパンクを。Don’t trust under 50
佐藤誠二朗(著)
いつも心にパンクを。Don’t trust under 50
2025年8月26日発売
1,980円(税込)
四六判/288ページ
ISBN:978-4-08-788119-6

「卑屈に生きるなと教えてくれたのはパンクだった」――ブレイディみかこ(作家)

ラフィンノーズがソノシートをばらまき、NHKが「インディーズの襲来」を放送し、キャプテンレコードが大規模フリーギグをおこなった1985年から今年で40年。
KERA(有頂天)、チャーミー(ラフィンノーズ)、HIKAGE(ザ・スタークラブ)、ATSUSHI(ニューロティカ)、TAYLOW(the 原爆オナニーズ)ら、1980年代に熱狂を生んだブームを牽引し、還暦をすぎた今もインディーズ活動を続けるアーティストから、大貫憲章(DJ、音楽評論家)、平野悠(「ロフト」創設者)、関川誠(宝島社社長、元「宝島」編集長)など、ライブハウスやクラブ、メディアでシーンを支えた関係者まで、10代からパンクに大いなる影響を受けてきた、元「smart」編集長である著者・佐藤誠二朗が徹底取材。日本のパンク・インディーズ史と、なぜ彼らが今もステージに立ち続けることができるのかを問うカルチャーノンフィクション。本論をさらに面白く深く解読するための全11のコラムも収録。

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