メジャー化していくインディーズシーンの象徴的存在に

1980年代インディーズブーム真っ盛りのサブカル誌『宝島』、僕が愛読していたこの雑誌の編集長を務めていた人は、現在の宝島社社長・関川誠だ。

『宝島』発行元であるJICC出版局(現在の宝島社)が発足させたインディーズレーベル、キャプテンレコードも手がけていた関川は、このころのチャーミーとの会話を鮮明に記憶していた。

「当時は『宝島』もキャプテンも、でかくなるだけなるといいな、と思っていました。忘れもしないんですけど、そのためにはラフィンノーズのアルバムを出すことだと思って、チャーミーと話したんですよ。今はなき原宿のセントラルアパートメントの地下で、『何とか、うちから出せない?』って聞いたら、彼はしばらく考えて『やっぱりメジャーで出します』と。しょうがないなと思ったけど、あのときラフィンを出してたら、キャプテンはもっとすごかったと思うよ。あのころのラフィン人気は本当にすごくて、頂点だった」

ラフィンノーズのボーカル・チャーミー(撮影/木村琢也)※写真は書籍掲載分より
ラフィンノーズのボーカル・チャーミー(撮影/木村琢也)※写真は書籍掲載分より

ソノシートばらまき事件を経た1985年10月、ラフィンノーズは東京・日比谷野外音楽堂で、4000人を超えるファンを動員するワンマンライブを敢行。同年11月21日にバップよりアルバム『ラフィンノーズ』、シングル『ブロークン・ジェネレーション』でメジャーデビューを果たす。

このころ、“インディーズ御三家”と呼ばれていたトップ人気の3バンド、ラフィンノーズ、ウィラード、有頂天のなかで先陣を切ってメジャーに躍り出たのである。

『宝島』とキャプテンレコードを通じ、かねてより3バンドと親交のあった関川は、当時の状況を振り返る。

「インディーズが盛り上がって、このころ一気にメジャーが入ってきたんです。それまではどのバンドも、『インディーズでどこかから一枚でも出せればいいや』って感じだったのが急に引く手数多で、『どこのレコード会社にしようかな』という状態になってきた。バンドにしたら、それならやっぱりメジャーがいいってなるのは、仕方がないですよね」

ハードコアパンク畑出身らしい激しさとスピード感を保ちながら、ポップでキャッチーなサウンドに変化していたラフィンノーズの曲は多くの人に受け入れられ、アンダーグラウンドからどんどんメジャー化していくインディーズシーンの象徴的存在となった。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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楽曲だけではなく、ラフィンノーズはルックスの良さもシーンのなかでピカイチだった。バンドのアイコン的存在のチャーミーは男前でおしゃれ。ガーゼシャツやボンデージパンツ、クラッシュジーンズ、ドクターマーチンブーツといった典型的パンクファッションをベースとしながら、赤白のボーダーシャツやベースボールシャツ、白ジャケットなど、従来のパンクファッションとは異質のアイテムをミックスするスタイルでキメ、バンド少年たちに憧れられていた。

当時、見た目だけのパンクスを「ファッションパンク」と揶揄するような風潮もあったが、ラフィンノーズのメンバーはそれぞれにとてもファッショナブルで、そうした声など軽くいなすような圧倒的にかっこいい存在だったのだ。

文/佐藤誠二朗

いつも心にパンクを。Don’t trust under 50
佐藤誠二朗(著)
いつも心にパンクを。Don’t trust under 50
2025年8月26日発売
1,980円(税込)
四六判/288ページ
ISBN:978-4-08-788119-6

「卑屈に生きるなと教えてくれたのはパンクだった」――ブレイディみかこ(作家)

ラフィンノーズがソノシートをばらまき、NHKが「インディーズの襲来」を放送し、キャプテンレコードが大規模フリーギグをおこなった1985年から今年で40年。
KERA(有頂天)、チャーミー(ラフィンノーズ)、HIKAGE(ザ・スタークラブ)、ATSUSHI(ニューロティカ)、TAYLOW(the 原爆オナニーズ)ら、1980年代に熱狂を生んだブームを牽引し、還暦をすぎた今もインディーズ活動を続けるアーティストから、大貫憲章(DJ、音楽評論家)、平野悠(「ロフト」創設者)、関川誠(宝島社社長、元「宝島」編集長)など、ライブハウスやクラブ、メディアでシーンを支えた関係者まで、10代からパンクに大いなる影響を受けてきた、元「smart」編集長である著者・佐藤誠二朗が徹底取材。日本のパンク・インディーズ史と、なぜ彼らが今もステージに立ち続けることができるのかを問うカルチャーノンフィクション。本論をさらに面白く深く解読するための全11のコラムも収録。

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