ヨコハマBJブルース

横浜を舞台にした一九八一年版歌謡映画の脚本を書きはじめた。
書きながら、何度か、横浜に行って歩いた。
赤レンガ倉庫のあたり。
馬車道。
本牧あたり。
大黒埠頭。
引き込み線。
地下鉄駅と駅前を何箇所か。
横浜港を見渡す公園。
朝。昼。夜。
優作演じるブルースシンガー兼私立探偵の足と心になりきって、歩く。
飄々と、漂うように。
途中で、自宅にいる優作に電話する。公衆電話。

「いま、馬車道にいるんですけど」
「どう」
「漂ってきて、佇んで、またフラッと人混みに消えてゆく。表通り、ブルース背景(バック)にいけますよ」
「表通り、人混みに消えるんじゃなくて、ビルの地下か上階に入りこむ。いい階段はないか探してみて」
「了解。優作さん」
「なに」
「BJって名前にしませんか。さっき、歩きながら降りてきた」
「遊んでるな」
「いい遊び場です、ヨコハマ」
「乗るか、BJ」
「ノリで」


松田優作氏(右)と著者・丸山昇一氏(左)。「第2回ヨコハマ映画祭」授賞式にて。写真提供/鈴村たけし

松田優作氏(右)と著者・丸山昇一氏(左)。「第2回ヨコハマ映画祭」授賞式にて。写真提供/鈴村たけし

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文/丸山昇一

生きている松田優作
丸山 昇一
生きている松田優作
2025/8/26
2,200円(税込)
244ページ
ISBN: 978-4797674552

『探偵物語』『野獣死すべし』などの脚本家・丸山昇一が、
没後40年を経てなお輝きを失わない不世出の天才俳優・松田優作との出会いから
永遠の別れまで10年余の日々をつづる渾身の一作!

■「一緒に死んでもいいほど惚れていた、殺意を抱くほど憎かった」──1979年、新TVドラマ『探偵物語』の製作前打ち合わせ。脚本家志望の若者・丸山昇一の前に現れたのは、「むき出しの野心」と「さわると危険」な空気をまとった、サングラスにデニムのスタジャンのスター、松田優作。この「好きな俳優ではなかった」が「存在感がすごすぎる」役者との出会いが、丸山の運命をかえていく。『探偵物語』で脚本家デビューを果たした丸山は、同じく優作主演の『処刑遊戯』で念願の映画脚本を担当。撮影現場で、完成した映画で、松田優作のすごさに感動した新米脚本家。映画の出来ばえに脚本家としての自信も得た。そして、優作主演の大作『野獣死すべし』の脚本執筆という注文が、角川春樹から舞いこんでくる。それは松田優作とのさらなる戦いの始まりであった……1989年、突然の別れを迎えるまでの濃密すぎる関わりを、愛憎入りまじった感情を、脚本家・丸山昇一が初めて自身の筆で書きしるす! 70年代末~80年代の映画業界の熱気と混沌、不世出の大スターの情熱と凄み、脚本家の苦悩と恍惚、を活写した快作!
■回想録本編に加え、松田優作が生前語っていた構想を基に、75歳の優作主演を想定して書かれた探偵ドラマの書きおろしシナリオ『21世紀探偵秘帖 顔(フェイス)と影(シャドー)』を収録!

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