「お前、キョーハン(共犯)だから」

松田優作氏(撮影/中村冬夫)
松田優作氏(撮影/中村冬夫)

外に出て、新宿駅をめざして歩く。

「今日さ、東映の重役が、第二の高倉健になってくれと、そういう話だった」
「前は、ブルース・リーとかジャッキー・チェン並みのアクションスターにって話も」
「なんだかな」
「だかな、って話ですね」
「じゃ、バーターで『荒神』やらせてくれって言おうかと思ったけど、隣に黒澤さんもいたし、……なんだかな。意気上がんなかったよ」
「わかります」
「しばらくはまだ遊ぶよ。頭真っ白にして」
「音楽」
「うん」
「丸山は、いま何してる」
「フジで帯番組(オビ)を。黒澤、村川、丸山で『探偵同盟』」
「ふん。馬鹿やってんな。同盟、か」
「そのまま『探偵物語』の盗用(パクリ)です」
「安売りするなよ」
「……はい」
「お前にも、村川にも言ってる」
「村川さん、『野獣死すべし』の時点で、日本一の監督じゃないですかね」
これは、本心を言っている。
「うん。だから安売りするなと」
「アンテナ、また磨きます」

駅の近くの、大通りに来た。
「終電、間に合うか」
「大丈夫です」

優作は、タクシーをつかまえた。
「丸山」
「はい」
「お前、キョーハンだから」
「え?」
「共犯者、俺と」
「あ、……」
そう言われて、別に悪い気はしないという自分もいる。

数日経って、真夜中、二時頃だったか、不意に電話が鳴った。
電話はいつだって不意に鳴るが、優作からの電話は特に、不意に鳴る、気がする。
「丸山?」
「はい。行きます。一時間、待てますか」
「すぐ来れる?」
「…はい」
「飄々と、漂う話だ」
「……はい。行きます。一時間、待てますか」
「いや。夜が明けてからでいいわ」
「え? いいんですか」
「すぐ行く、って返事してくれただけで、もう会ってる。つづきは、午後でいい」

こちらの仕事を大急ぎで片づけ、お昼すぎに優作の家に駆けつけた。
すぐ書斎にこもる。

いきなり、レコードでなくカセットテープをコンポでONにする。
サントラ。
『クルージング』を試写で観て感動したという。
アル・パチーノ主演。ウィリアム・フリードキンが監督。
パチーノ刑事が、ニューヨークのゲイがたむろする町に潜りこみ、連続する殺人事件を捜査する物語らしいが、その内容はともかく、融合する音楽に感銘を受けたそうな。
「音楽映画と呼ばれていいからさ、全篇、音楽と刺激し合うフィルムやりたい」
「ノリの良さ、ですか。ノリで勝負」
「うん。乗れよ」
優作が笑う。
めったに見せない優作の笑顔は、他に変えがたい魅力がある。

「ノリを脚本(ホン)にするのは難しいです」
「いよいよグールドやるか。『ロング・グッドバイ』」
「ああ。そっち方面からノリをつかまえますか」
「どこでやるか」
「トーキョウ? ヨコハマ? コウベ?」
「ヨコハマ、か」
「なんて名前の奴? だろ」
「英語。シンプルがいい」
「R、アール。J、ジェイ。K、ケイ」
「あとでノリで出てくるものを。それで、ヨコハマを、漂うんだ、飄々と」
「とにかく歩く、歩く、休む、歩く」
「ヨコハマ、意外と坂道多いからな。歩きのほうが絵になる」
「音楽、どうします?」
「作曲とか、候補は考えてる」
「優作さん、歌っちゃえば」
「おいおい」
「売れないブルースシンガー。あんまり売れてない私立探偵」
「……さえないライブの店。されど、ヨコハマ」